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9月13日 CAR-Tに用いる抗体分子は抗原に対して低い親和性の方が効果が高いこともある(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2019年9月13日
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我が国でも薬価が決まり、オプジーボとともに最も注目されているガン抗原に対する抗体とT細胞受容体シグナル伝達システムを組み合わせた受容体遺伝子を自己リンパ球に導入してガンを殺させるCAR-T療法も、特に小児の急性リンパ性白血病の治療には万能でないことがわかってきた。一番厄介なのがCAR=Tが抗原に反応して誘導されるサイトカインによる全身への影響とs脳神経の障害が副作用として多発する点だが、40−60%で再発が起こる。

今日紹介するロンドンにあるGreat Osmond Street Instituteと、Autolus Ltdが共同で発表した論文はこれまでのCAR-Tの問題の多くをなんとガン抗原として用いるCD19抗体の親和性をグッと下げたほうが効果が高く、副作用も少ない可能性を示す臨床研究でNature Medicineにオンライン出版された。タイトルは「Enhanced CAR T cell expansion and prolonged persistence in pediatric patients with ALL treated with a low-affinity CD19 CAR (小児のALL 治療に用いた低い親和性のCD19CAR―Tは従来のものと比べて体内での増殖と持続が促進される)」だ。

この研究ではガン抗原に結合したまま離れない場合、T細胞が疲弊する可能性があると考え、現在臨床に使われているよりCD19に対する親和性が40倍低い抗体分子を用いたCAR-Tを作成し、CATと名付け、現在利用されているCAR-Tと比較している。

おそらく抗原との結合・乖離を繰り返すことが可能になるため、試験管内で調べると白血病への細胞障害性が高く、またTNFの分泌効果も高い。

次に、モデルガン細胞を移植したマウスを用いた系にCAR―Tを注射して比べると、調べたほとんどのテストで従来のCAR-T(FMC63)のパーフォーマンスを上回ることがわかった。

この結果を受けて、骨髄移植を含む様々な治療にも関わらず再発した最終ステージの小児のALL患者さん17人にこの治療を試みている。このうち、CAR-Tを患者さんの末梢血から作成できたのが14人で、この患者さんたちの経過が詳しく述べられている。ただ、無作為化や偽治療などは行わない一種の観察研究だが、CAR-T治療の場合はこれが標準になっていると思う

さて結果だが、14人の内、白血病細胞が癌遺伝子で見ても完全に消えたケースは12例で、2例は全く反応しなかった。従って、低い親和性の抗体でも期待通り高い効果が得られる。しかし、ガンがCD19の発現を抑えてCAR-Tからの攻撃をする抜けて起こる再発が6例に見られる。これはガン自体の問題で、CAR-Tでは解決できないと思うが、今後この問題にどう対処するのか研究が待たれる。

フォローアップ期間がまちまちなので、最終結論を下すのは難しいが、2年目での生存率を5割程度と予想している。これはFMC63と大体同じレベルだが、最も大きな違いは、白血病が消えた後も多くの患者さんでCAR-Tが長期に維持されていることで、記憶型CAR-T細胞が出現したのではと議論している。

もう一つ重要な違いはFMC63と比べて副作用が低い点で、サイトカイン遊離による症状はグレード2まで、同じく、神経障害もグレード3まで行くのが1例だけだった。ただ、白血球減少症や、感染症などは同じようにおこる。

以上が結果で、まだ少数例だが十分期待できると思う。今後さらに多くの治療例を加えて最終結果が出ると思う。生存期間で見ると、大きく改善とはいかないようだが、多くのCAR-Tが競合できる環境が生まれるのは、患者にとってはありがたい。決してカルテルなど結ばず、効果と価格で競争して欲しいと思う。

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