ミトコンドリアについての論文紹介の最後はスタンフォード大学からのパーキンソン病の新しい分子標的についての論文で、タイトルは「Miro1 Marks Parkinson’s Disease Subset and Miro1 Reducer Rescues Neuron Loss in Parkinson’s Models(Miro1は一部のパーキンソン病の標識になりこの分子の機能を抑える化合物はパーキンソンモデルで神経変性を改善する)」だ。
ミトコンドリアの研究が最も進んでいる神経変性疾患はパーキンソン病(PD)で、機能低下したミトコンドリアを処理する分子ParkinやPinkの変異でパーキンソン病が発症する。ただ、分解される前にミトコンドリアを細胞システムから切り離す必要があり、そのためには細胞内の微小管からミトコンドリアが切り離されるが、これに関わるのがMiro1だ。
これまでの研究でミトコンドリアが障害を受け脱分極すると、ミトコンドリア膜から離れる。これによってミトコンドリアは微小管から切り離され、動きが抑えられるため、Parkin/Pink分解システムにより処理が可能になる。
著者らはMiro1が脱分極膜から離れないことが、細胞死の原因ではないかと考え研究を行ってきた。この研究ではまず多くのPD患者さんから提供された線維芽細胞を用いて、PD ではMiro1が脱分極してもミトコンドリア膜に残るのではないかという可能性を確かめている。結果は、93%の患者さんで、Miro1が脱分極したミトコンドリア膜から除かれないことを確認している。
この現象はほとんどのPDで見られ、しかも他の変性疾患では見られないことからPDの診断に利用できるが、この現象が起こるプロセスには、Pink/Parkinシステム以外にも様々な経路が関わる可能性を示している。
このように、原因は様々でもMiro1がミトコンドリア膜から離れないという現象は特異的なので、次にこのプロセスを促進する化合物のスクリーニングを行い、最終的に脱分極したミトコンドリア膜上のMiro1の除去分解を促進するMiro1-reducerと名付けた化合物を特定している。そして、この化合物の作用メカニズムが、Miro1のプロテアソームによる分解を促進することによると特定している。
最後に、患者さんiPS由来の神経細胞を用いて、antimycinによる呼吸抑制による神経細胞死を防げること、そしてショウジョウバエのパーキンソン病モデルでも一定の効果があることを示している。
パーキンソン病の最初の原因はシヌクレインの蓄積による神経障害と考えられているが、ミトコンドリアの処理機構の活性が発病過程に大きく関わることは明らかだ。今回、Miro1というミトコンドリア処理に関わる新しい分子が見つかったことで、診断だけでなく、神経細胞死を遅らせるという治療法の可能性が一歩進んだように思える。