胎児の発生は妊娠中のさまざまなストレスにより大きく影響される。これは放射線のように遺伝子の変化によるものより、遺伝子発現を調節するエピジェネティックな変化が誘導される場合の方が多い。最も有名なのは第二次大戦時に強い飢餓状態にさらされた妊婦さんから生まれた子供に認められた変化で、例えば中年を越してからインシュリン分泌が低下する形の糖尿病が多発したことが知られている。もちろん妊娠中の飲酒も胎児のエピジェネティックスに影響して本来抑えられていた内因性ウイルスが活性化されることが知られている。しかし、まだまだ研究が必要で、特にメカニズムについては動物モデルでの研究が重要だ。
今日紹介するトロント大学からの論文はビタミンC不足の胎児発生、特に生殖細胞発生について調べた研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Maternal vitamin C regulates reprogramming of DNA methylation and germline development (母親のビタミンCはDNAメチル化をプログラムし直し生殖細胞発生に影響する)」だ。
エピジェネティックスの変化を誘導する要因の一つがDNAメチル基をハイドロオキシ化するTET酵素だが、このレベルがビタミンCにより変化することがすでに知られていた。この研究では妊娠前3日から胎生13日まで、マウスのビタミンC摂取を制限したい時発生への影響を見ている。
驚くことに、ビタミンCを制限しても胎児発生自体は正常に進むが、唯一生殖細胞数だけが、減数分裂の進行が抑えられるために強く抑制されることを発見する。さらに、ビタミンC欠損下で発生したマウスの生殖細胞を調べると、卵子の形成が低下しており、さらに妊娠しても着床が低下し、また流産が多いことを確認している。すなわち、ビタミンCの摂取不足は胎児発生自体は見た目正常でも、特に卵子の発生が抑制され、卵子の機能も異常であることが明らかになった。また、この異常は13日以降ビタミンC摂取を元に戻しても元に戻らない、胎児期のエピジェネティックな変化によることも確認している。
次にメカニズムを調べる目的で胎児DNAのメチル化状態を調べ、Tet1ノックアウトマウスと同じようなメチル化異常が誘導されていることを明らかにし、またビタミンC不足により組織のハイドロオキシメチルDNAが低下することから、ビタミンC不足による以上の一因がTET1の発現低下によることを示唆している。
実際メチル化の異常により変化する遺伝子の多くは、卵子分化過程でメチル化が外れることが知られる遺伝子で、この結果減数分裂時に必要な遺伝子の発現が抑えられ卵子発生の異常が誘導されると結論している。
結果は以上で、ビタミンC不足といった非特異的な変化でも、DNAメチル化の大きな再構成が進む生殖細胞がエピジェネティックなストレスにさらされやすいことを示した、臨床的には重要な研究で、今後他の要因についても、子供世代の生殖能力についての研究が必要であることを示唆する臨床的には重要な研究だと思う。