私自身は40代から特に右耳の難聴があり、65歳の引退を機に補聴器を購入して使っている。音楽会も含めて日常生活は補聴器なしで済ませることができるが、会議や会話になるといまや補聴器はなしで済ませない。
これまでの研究で、聞こえが悪くなり周りとの関わりが減ると認知症になったり、うつ病になるリスクが高まる可能性が指摘されていた。この可能性を検証するため、ミシガン大学のグループは10万人を超す難聴と診断された66歳以上の高齢者について調べた論文を米国老年医学誌にオンライン発表したので紹介する。
この研究では、米国で2008年から2016年にかけて難聴と診断され医療保険が利用された113862人の66歳以上の高齢者を追跡し、アルツハイマー病、うつ病、そして転倒による外傷の発症頻度を、補聴器を使い始めた人と(女性11.3%,男性13.3%)と、使わなかった人で比べている。
結果は明確で、難聴と診断され補聴器を使い始めた人たちの方が、アルツハイマー病、うつ病と不安神経症、転倒による外傷の相対危険度がそれぞれ0.83、0.86、0.87と優位に低かった。
以上の結果から、難聴と診断されればやせ我慢しないで補聴器を使うべきだと結論している。
「ごもっとも」と納得できる論文だが、それならもう少し補聴器が安くなることを期待する。
これまでなんども紹介しているように、デニソーワ人ゲノムは解析されているが、残っている骨格はほとんどなく、どんな姿だったのかがわからない。例えばゲノムレベルでデニソーワ人とネアンデルタール人は我々より近縁と言えるが、9月4日Science Advanceに(eaaw3950)パリ大学のグループは指の骨の形は私たちに近いことを発表している。ただ、中国内陸部から出土したこれまで由来がよくわからないとされてきた骨がひょっとしたらデニソーワ人かもしれないという可能性が生まれたため、急速に骨格がわかるのではという期待がある。
そんな時今日紹介するイスラエル・ヘブライ大学から、解読されたゲノムからデニソーワ人の骨格の形態を推察しようというチャレンジングな論文が発表された。手法自体はbelieve or notで、その正当性を評価はできないが、志はわかるといった論文だ。タイトルは「Reconstructing Denisovan Anatomy Using DNA Methylation Maps (デニソーワ人の形態をDNAメチル化マップから再構成する)」だ。
私たちの形態は遺伝子のオン・オフで決まっていくが、これを決めるのがエピジェネティックだ。ホモ・サピエンスと他の古代人のゲノムは概ね同じと言えるが、このオンとオフの違いをなんとか決めれば、形を想像できるのではないかというのが著者らの期待だ。
このon/offの機構はエピジェネティックと呼ばれ、多様なメカニズムが使われているが、そのうちのシトシンのメチル化は、メチル化によるDNAの経年変化の違いから計算でき、古代人のDNAのメチル化マップを作ることができるというのがこれまでの著者らの研究だ。本当ならこの論文を見落とすはずはないと思って引用を調べると、確かにあまり読まれない雑誌に発表されており、広く認められていないようだ。そこで一発起死回生を求め、今回の研究になったと思う。
研究ではDenisova3と呼ばれる体のゲノムと、2体のネアンデルタールゲノム、そして45000-7000前のホモ・サピエンスゲノムのメチル化DNAマップを作成し、現代の人間やチンパンジーのマップと比較している。
ただ、一般的なメチル化マップだけで形態を予想するほど私たちの知識は進んでいない。またメチル化自体all or noneではない。そこで、遺伝子のプロモーター部分で、強くメチル化されている部分のみを選んで比較し、他の人類と比べて遺伝子発現に差がありそうな遺伝子をリストしている。
そしてこの変化があると思われる遺伝子が、私たちの骨格にどのような影響があるのかを、形質とゲノムの関係をリストしたHPOデータベースから拾い出し、メチル化により変化した遺伝子発現をリストし、それを元に現代人の骨格に変化をつけて、最終的に形態を推察するという方法を取っている。
はっきりいって本当にこれでわかるのかが問題だが、骨格がわかっているネアンデルタール人についてこの方法を用い、例えば顔が長い、顎が広い、等々14以上の顔の形態変化を予測できるとしている。
結論の詳細を省いて、結果をNatureも紹介しているポートレート(https://www.nature.com/articles/d41586-019-02820-0 )で代えるが、まだまだbelieve or notのレベルだと思う。
とはいえ、論文自体は、はっきりと未来の方向性を見据えたいい挑戦だと気に入った。