1990年ぐらいから様々な血管形成に関わる因子が明らかにされ、またノックアウトマウス技術も広く普及したため、血管生成の研究は急速に進んだ。そのとき多くの研究者が焦点を当てた分子がTie1とTie2と呼ばれる受容体と、そのリガンドで、もちろんどちらをノックアウトしてもマウスは胎生致死になった。ただ、リガンドが特定されているTie2と比べると、Tie1は現在もなお明確なリガンドが特定されておらず、血管新生への関与はTie2と膜上で結合してダイマーを形成することが主ではないかと考えられてきた。
今日紹介する中国広州南医科大学からの論文は肝臓繊維化の研究から繊維化促進因子として発見されたLECT2がTie1と結合して肝臓の血管形成に大きく影響することを示して、長年の謎を明らかにした研究で9月5日号のCellに掲載された。タイトルは「LECT2, a Ligand for Tie1, Plays a Crucial Role in Liver Fibrogenesis (Tie1のリガンドLECT2は肝臓の繊維形成に決定的な役割を演じている)」だ。
おそらくこのグループはTie1を念頭に置かず、人間の肝硬変の程度と強く相関する分子マーカーとして、LECT2を特定し、この分子の機能を調べ始めたと思う。
まず4塩化炭素を用いて肝硬変を誘導すると。LECT2レベルは上昇する。またこのモデル系でLECT2遺伝子をウイルスベクターで過剰発現させると、肝硬変は悪化するし、逆にノックアウトしておくと肝硬変は軽減される。すなわち実験的にLECT2が肝硬変を促進する分子であることを確認する。
そしてこの肝硬変の背景に肝臓の類洞の毛細血管増生が起こる一方で。門脈系の血管低形成が存在し、この結果肝臓への血流が低下し、繊維化が起こること考えている。この、類洞の構築が壊れて毛細血管化するという現象はTie2の関与を疑わせる。
そして、LECT2とTie1がリガンドと受容体として直接相互作用すること、またノックアウトやノックダウンでLECT2の作用はTie1が必要であることを明らかにする。ついにTie1と結合する分子が同定され、これが血管形成に関わることが確認された。
次はLECT2のシグナル伝達機構に取り組み、LECT2がTie1/Tie2の結合を阻害してTie2/Tie2の結合を安定化させることで、Tie2へのシグナルを促進し、血管内皮の移動や管腔形成を抑え、同時に門脈形成を抑制すると結論している。肝臓には、一般の血液系と門脈系が存在するが、それぞれがLECT2に対して異なる反応を示すのは面白いが、メカニズムについてはさらに研究が必要だ。
最後に、様々な肝硬変モデルをLECT2のshRNAを肝臓に導入することで肝硬変を抑制できることを示し、この経路を肝硬変の治療標的として使えることを示している。
まだまだメカニズムについては明らかにする点が多いと思うが、Tie1に直接結合するリガンドとしてLECT2を特定し、しかも肝硬変に血管新生異常が強く関わっているというこの結果は、血管形成の研究でもまだまだ新しい分子の道程が必要なことを物語るように思えた。