今日から頭の整理もあるが、ミトコンドリアと病気についての論文を3日間紹介することにした。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、ほとんどの神経変性疾患で障害されたミトコンドリアが細胞外に吐き出されてそれが他の細胞の変性を誘導することを示した論文で10月号のNature Neuroscienceに掲載された。タイトルは「Fragmented mitochondria released from microglia trigger A1 astrocytic response and propagate inflammatory neurodegeneration (ミクログリア細胞から分泌される断片化されたミトコンドリアがアストロサイトの反応を誘導し、炎症性の神経変性を伝播する)」だ。
アルツハイマー病やALSなど、なかなか原因を取り除くことが困難な疾患の新たな介入可能な標的として炎症が注目されているが、この研究もこの線に沿っている。著者らはほとんどの神経疾患のニューロンで、ミトコンドリアの分裂が異常になって断片化が起こることに注目し、この過程に関わるDrp1とFis1の結合を阻害するペプチドP100を脳内に持続投与して変性疾患を治療する可能性を追求してきている。
この研究でもアルツハイマー、ハンチントン、ALSの3種類のモデルマウスを用いて、P100投与が、ミクログリアだけでなく、アストロサイトの活性化を抑える結果病気の進行を抑制すること、そしてP100の標的であるDrp1の活性化とそれに伴う断片化されたミトコンドリアが変性疾患での炎症に強く関わることを証明している。
次に様々な変性疾患モデルでみられる、ミトコンドリア断片化を伴う炎症は、活性化されたミクログリアの培養上清でこんどはアストロサイトでのミトコンドリア分裂の異常が誘導され、炎症が拡大し、最後にアストロサイトに広がった同じ異常がニューロンにまで広がることを示している。
そしてこのミクログリアに発して炎症を広げていく培養上清中の成分こそ、Drp1-Fis1に依存して生成し、細胞外へ吐き出される断片化されたミトコンドリアであることを示している。面白いことに、吐き出されたミトコンドリアが全て有害というわけではなく、正常機能を維持した断片は逆に神経を守る機能があり、神経変性は異常ミトコンドリア断片と、正常ミトコンドリア断片のバランスの上に立っていることを明らかにしている。
これまで、変性を誘導するプリオン型の沈殿タンパク質が変性を伝播することが示されてきたが、炎症による毒性を伝播する新しいメカニズムが提案された研究だと思う。ただこの研究のハイライトは、やはりメカニズムよりDrp1の抑制による変性の治療で、マウスでの結果から見れば、進行の早いALSなどでは是非臨床へ向けた取り組みを期待したいと思った。