阪大の岸本先生のグループによってIL-6に対する抗体は、免疫病の重要な薬剤として開発されたが、IL6のシグナルがどう伝わるのかについての研究は大変な研究で、岸本先生らによって明らかになった受容体の構造は分泌型の受容体と結合してから膜上のgp130に結合するという極めて複雑なものだった。
その後同じgp130をシグナルに使うLIFやCTNFのシグナル伝達が明らかになると、この系はさらに複雑な系であることがわかった。
一方臨床応用については、IL6抗体のほかに、食欲を抑えて肥満や糖尿病を治すことがわかっていたCTNFの利用の可能性も追及され、実際第3相試験まで進んだが、これに対する抗体ができることから開発は中断された。
今日紹介するオーストラリア モナーシュ大学からの論文はこのCTNF を用いた糖尿病治療というアイデアを、IL6の一部をLIFの一部で置き換えることで実現できることを示した画期的な論文で9月25日号のNatureに掲載された。タイトルは「Treatment of type 2 diabetes with the designer cytokine IC7Fc (デザインされたサイトカインIC7Fcを用いて2型糖尿病を治療する)だ。
この研究ではIL6の2箇所あるgp130結合部位をLIFと置き換え、gp130, 分泌型IL-6R、そしてLIFRに結合するという自然には存在しないサイトカインをデザインし、これに免疫グロブリンのFc部分を結合させて安定化させ、著者らがIC7Fcと名付けた人工サイトカインを作っている。
もちろん自然にないシグナル伝達の仕方をするサイトカインなので、その効果を調べるためマウスに注射すると、最もはっきりした効果が、過食により誘導される肥満を抑える効果であることがわかった。そして、この効果がCTNFと同じように食欲を抑えることで起こることを示している。
ところが食べないと筋肉量も低下するのだが、このサイトカインはYapタンパク質の発現を高めて、筋肉量を維持することができる。しかも、Yapが上昇すると困る肝臓では、なんとYapの発現を抑え、健康に良い方向だけに効果を示す。
良いことはさらに続く。なんとインクレチン経路や他の経路を介して膵臓β細胞のインシュリン分泌を高め、同時にグルカゴン分泌も刺激することで、低血糖発作を防ぐ。そしてグルコース耐性を改善することで、基本的に2型糖尿病治療薬として働く。他にもメカニズムは完全に明確ではないが、骨密度を高めることから、骨粗鬆症にまで効果があることを示している。
最後にFC7Fc遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作成し、この分子が作り続けられてもマウスの生存に影響がないこと、また肥満が防げることを示した上で、最後に猿に投与して副作用がないことを確認している。すなわち、IL6で見られる炎症誘発効果はない。
ちょっと信じがたいほど、それぞれのサイトカインのいいところを集めることに成功したという結果だが、自然を少し変えて、自然にはない効果をデザインできることを示した、面白い論文だと思う。しかし臨床応用が実現した暁には、どのような値段になるのだろうか。片方にはメトフォルミンという安価な特効薬が控えている。