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3月3日 思春期の脳発達(2月11日号 米国アカデミー紀要掲載論文)

2020年3月3日

振り返ってみると、小学校時代までは「死んでも生き返ることがある」という幻想を持っていたように思う。しかし高学年から中学校にかけて、その最終性を理解できるようになり、キリスト教に惹かれるようになったのもちょうどその頃だ。しかし、大学で様々な思想に触れるようになると、宗教に幻想を持つこともなくなってしまった。その後は、一般の人から見たら、頭でっかちの生活を続けている。いずれにせよ、思春期の何年か、知性から感情まで大きな変化を経験したことは確かだ。

今日紹介するケンブリッジ大学を中心に多くの研究機関が集まって発表した論文は298人の思春期前から青年期までの機能的MRIデータをまとめて思春期に起こる脳内ネットワークの結合性をまとめた論文で2月11日米国アカデミー紀要に掲載されている。タイトルは「Conservative and disruptive modes of adolescent change in human brain functional connectivity (思春期の人間の脳に見られる機能的結合性の保守的および革新的変化)」だ。

この研究では、安静時の脳血流を調べ、反応の連動性から脳内各部の結合性を調べる方法を用いて、思春期前から思春期後の健常人のデータを集め、思春期で脳各部の結合性がどう変化したのかを調べている。ただ、この方法は何かの課題を行う時の機能的MRIとことなり、本当に結合性を反映できているのかなど様々な批判があった方法だ。特に一定時間記録を取り続けるため、頭が少し動くだけで結果が大きくずれるという問題があった。

専門外なので理解していないが、この研究のハイライトはこの問題を解決するための新しい手法を用いて補正してデータを集めた点にあると思う。結局は情報処理を重ねる研究なので、そうして出てきた結果がどのぐらい信頼できるかどうかは、私のような素人には評価できない。ここは信じて先に進む。

さて、こうして脳内330の大脳皮質領域および、16の皮質下領域との結合性の強さを計算すると、皮質同士の結合は年齢に比例して高まっていく保守的な変化を示すが、皮質下と皮質の結合は、急に強くなったり、弱くなったりと破壊的な変化が見られる領域が目立つ。

この研究では14歳時の各領域間の結合性と年齢による変化を変数にした成熟係数(maturational index)を考案し、これにより変化の意味がよりわかりやすくなるよう工夫している。特に、各領域の結合が受け持つ脳機能をこの変化に重ね合わせて、思春期に起こる心の変化がわかるようにしている。

これによると、例えば運動機能、感覚機能、感覚と運動の連携などは皮質各領域間の結合を反映し、成長とともにコンスタントに結合力が高まっていく。一方、自分を振り返る能力、社会性、記憶、他人の理解などは皮質と皮質下領域との結合性に関わり、破壊的な変化が見られることを示している。他にも多くの高次脳機能の変化が量的に示されており、じっと見ているだけで面白いが省略する。

最後にこの急速な変化の背景を探るため、データベースから得られる脳各領域の解剖学的変化や糖代謝活性や遺伝子発現と、各部の成熟係数との関連を調べ、破壊的な変化が見られる領域は、急速に領域が活動し、代謝活動が高く、好気的解糖活動が高く、またそれらに関わる遺伝子発現も上昇していることを示している。

すなわち、思春期に大きなエネルギーが必要な様々な脳活動が急速に高まることを示している。個人的には、頭でっかちの自分を作る基盤が思春期に形成されるのだと納得した。

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