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自閉症の科学39 ASD児に関する気になる治験 I 絵本を読み聞かせる効果

2020年3月6日

自閉症スペクトラムについての医学生物学的研究は急速に進んではいるものの、ようやく早期診断のための方策が見えてきた段階で、まだ治療の決め手はなく、一見思いつきとも言える手作りの治療法の効果を探っている段階と言えるだろう。大事なことは、これらの手探りの多くが論文として公開されている点で、論文を見ていると「こんなことまで調べているのか」と本当に感心する。これから3回に分けて、こんな気になる治験について紹介しようと思っている。

1回目の今日は、絵本の読み聞かせとASD児の言語反応との関係を調べたオーストラリアGriffith大学の研究で、Journal of Autism and Developmental Disorderに発表された(上図)。

両親との言葉を通したコミュニケーションが子供の言語能力に大きな影響がある事はよく知られている。その典型的な例が、絵本を前にして子供にその内容を読み聞かせる行動で、これが子供の言語能力を発展させることについてはすでに多くの報告がある。

しかし、社会性と言語能力の低下が見られるASDの子供たちに絵本を読み聞かせることで言語能力や社会性が改善するか調べた研究は不思議なことに殆どなかったらしい。

この研究では47人のASDと診断された4歳から6歳の子供とその家族に参加してもらい、この研究のために選んだ2種類(一冊ははっきりした物語、もう一冊は絵が飛び出すカラフルなビジュアル系)の絵本を、ASD児と一緒に見ながら親が説明する課題を行ってもらい、その一部始終をビデオに撮影してもらっている。

このビデオを解析して、親の行動と子供の反応や能力との相関を調べ、社会性や言語能力を改善させるヒントを得ようとしたのがこの研究だ。従って、この研究だけからは本を読み聞かせることがASDの社会性や言語能力に効果があるとかないとかは結論できない。

本を読み聞かせる時間の平均は高々一冊の本で6-7分で、短い場合は3分、長い場合は20分と大きくばらつく。この間のお母さんの行動を、

  • 本に書かれている絵を指差したりして言葉を教える行動、
  • 物語の構築についてもう一度わかりやすく説明する行動
  • 子供への質問、
  • テキストに書かれている文を読みながら、その中の単語を教える行動。

にわけている。

これに対する子供の行動としては、親とコミュニケーションを取ろうとする発語と、発した単語の数を記録し、親の行動との相関を調べている。

わかりやすく言うと、ASD児の言葉の反応が、親のどの行動に対して起こるかを調べている。詳細を省いて結果をまとめると次のようになる。

  • 本を読み聞かせる時の親の行動は多様。
  • しかし、個々の行動と子供の反応との相関を調べると、本の内容に基づいて、その意味を伝えようとするときに子供はより強く反応する。
  • 本に書いてある単語について説明すると子供の文字の知識が増える。

かなり単純化したが、結果は以上で、本を読み聞かせることはASDの子供の言葉の使用を高め、文字を習得するのに役立つと結論している。しかし残念ながら、この読み聞かせがどの程度の症状改善をもたらせるかなどの臨床的検討は全く行われていない。

それでも、両親が絵本を読み聞かせるとき、子供のどんな行動に注意すればいいのか、参考になるのではないだろうか。

明日はASDの子供をサッカークラブに入れたらどうなるかを調べた論文を紹介する。

3月6日 分裂中のES細胞が幹細胞遺伝子を持続的に発現できるメカニズム(3月5日号 Nature 掲載論文)

2020年3月6日

20世紀までは、分裂していると幹細胞状態が維持でき、分裂が止まると分化すると極めて幼稚な考えで済ませていた気がする。しかし、クロマチン構造と転写の関係を知り、また分裂ごとにクロマチン構造が再構成されることを理解すると、分裂自体が未分化性の維持に対する最も強い不安定因子であることがわかる。これが理解されると、分裂速度が高いES細胞が未分化性を維持できているのが逆に不思議に見えてくる。

今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校からの論文はES細胞が分裂中も未分化因子の転写を続けるメカニズムに迫った論文で3月5日号のNatureに掲載された。タイトルは「Gene expression and cell identity controlled by anaphase-promoting complex (遺伝子発現と細胞の特異性は後期促進複合体により調節されている)」だ。

研究はオーソドックスな手法を用いたかなりの力仕事である印象を受けた。まず、ES細胞での多能性維持遺伝子Oct4の発現に必要な遺伝子をshRNAスクリーニングで探索、様々な遺伝子の中から細胞周期の中期から後期の移行に関わることが知られているユビキチンリガーゼ複合体(後期促進複合体:APC/C)の構成成分に焦点を当てて研究を続けている。

まず遺伝子ノックダウンを用いた機能的検索から、APC/CがES細胞の分裂期に転写を維持するのに必須であり、ノックアウトされるとOCTやNANOG の発現低下が見られることを確認する。すなわち、APC/Cユビキチンリガーゼ活性により、転写開始点の機能を維持している可能性が高い。

そこで転写複合体とAPC/Cを結びつける分子を探索し、活性化されたプロモータに存在するメチル化ヒストンH3K4に結合するWDR5を突き止める。この発見が研究のハイライトで、WDR5とAPC/Cが分裂中のクロマチンと相互作用して、転写を止めずに分裂を進めるという図式が想定される。

これを確かめるため、APC/C-WDR5が分裂期のプロモーター領域に結合しているのか、その場所のヒストンのユビキチン化に関わるかなど、主に生化学的手法を用いて検討し最終的に以下のシナリオを提案している。

まず細胞分裂が始まる前から、WDR5がプロモーターに結合するTATA結合複合体と結合している。分裂期に入るとWDR5はAPC/C複合体を転写開始点にリクルートし、ヒストンのK11/K48にユビキチン分枝を加えることで、プロテアソームを連れてきてヒストンを不安化させて、分裂後期のクロマチンの変化から転写スタート部位を守るというシナリオだ。

現役を離れてだいぶ経つので、その後の進展を全てフォローできてはいないと思うが、WDR5の登場によって、分裂期の転写パターンの維持のメカニズムについて頭の整理ができた。おそらく、このスキームは山中4因子によるリプログラムを理解するにも大事な気がする。今後他の幹細胞でも検討が進むと期待する。

カテゴリ:論文ウォッチ
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