おそらく今でも、統合失調症は、妄想、幻覚など正常人には見られない陽性症状と、言葉数が減り、感情が現れず、引きこもるといった陰性症状、それに物忘れや注意力の低下など認知症状を組み合わせて診断するのだと思う。その結果、陽性症状の強い妄想型、陰性症状の強い破瓜型、そして興奮や混迷など特異的行動が目立つ緊張型に分けられる。とはいえ、ゲノムや脳画像による研究は、統合失調症として一括りにして調べることが多い。
統合失調症の脳画像解析研究は盛んに行われており、私もなんどもこのブログで紹介している。おそらく、ほとんどの研究で共通に示しているのが、脳全体にわたって灰白質の萎縮が見られるという結果で、患者間での多様性はこの共通性の中に押し込まれてしまっていた。
今日紹介する米国、英国、ドイツ、イタリアの4施設からの共同論文は307人もの統合失調症患者さんと364人の正常人の脳の解剖学的データを比べ、統合失調症に全く異なる2種類のタイプが存在することを示した面白い研究で2月27日Brainにオンライン出版された。タイトルは「Two distinct neuroanatomical subtypes of schizophrenia revealed using machine learning (機械学習により明らかになった統合失調症のはっきりと区別できる二つの神経解剖学的タイプ)」だ。
同じような研究はこれまでも繰り返し行われ、灰白質の萎縮が突き止められてきた。この研究では最初から、統合失調症として一括りにするのではなく、一種の機械学習を加えたHYDRAと呼ぶアプリケーションを用いて、統合失調症の特徴として抽出された変化が、全てのサンプルに見られるのか、あるいは一部の人にだけ見られた結果なのか、もし一部の人だとすると幾つのサブタイプがあるか探索させるところから始めている。
この結果、統合失調症のMRI形態画像は、
- 皮質全体に灰白質の萎縮が目立つグループ(67%)
- 皮質全体の萎縮はほとんど存在せず、逆に大脳基底核の増大がはっきりしているグループ
の2つに分けられることを明らかにする。
実際の画像を見ると一目瞭然で、2型では萎縮は全く見られないといっていい。
最後にそれぞれのタイプと症状を照らし合わせると、陽性症状、陰性症状にはっきりした差は認められないが、萎縮が見られるタイプでは最終学歴の達成度が低下している一方、2型では正常人と変わりがないことが明らかになった。
結果は以上で、ともかくMRIで分別できる病型が明らかになったことは大きい。おそらく、萎縮型は脳の発生障害を基盤としていると考えられる。重要なのは、萎縮型に基底核の増大が見られることは全くない点で、基底核増大型は最近注目されてきたドーパミン過剰型に対応すると考えられる(ドーパミン過剰型の動物モデルについては昨年秋紹介した:https://aasj.jp/news/watch/11332)。
今後伝統的な病型の見直しも含める大きな診断法の変化を予感させる論文だと思う。