私の知人の例を見ていても、オプジーボなどのチェックポイント治療は高い効果を示しており、ガン治療を大きく変革した。ただ、メカニズムが活性化されたT細胞に対する抑制を外すという一点突破なため、それ以外のポイントでがん免疫が抑制されてしまうと、効果が全く出ない。このことから、チェックポイント治療を、他のポイントに対する治療と合わせて使うと効果が高まることは当然だ。
この時、ガン免疫誘導ポイントに対する介入と並んで期待されているのが、チェックポイント治療の結果キラー細胞が腫瘍組織から排除されるのを防ぐ方法の開発で、中でも期待されているのがTGFβを抑制する方法だ。PD―L1に対する抗体とTGFβ阻害を一体化した抗体薬の可能性については二年前に紹介した(https://aasj.jp/news/watch/7964)。ただ、TGFβは3種類もあり、全体を抑制すると心臓に重篤な副作用が起こることもわかってきた。
今日紹介するボストンにあるベンチャー企業Scholar Rockから発表された論文ではTGFβ1の組織内での活性化を抑制する抗体薬が、副作用なしにチェックポイント治療効果を高めることを動物実験で示した論文で3月25日発行のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Selective inhibition of TGFβ1 activation overcomes primary resistance to checkpoint blockade therapy by altering tumor immune landscape (TGFβ1活性化の選択的抑制は腫瘍内の免疫状態を変化させてチェックポイント治療に対する抵抗性を克服する)」だ。
TGFβ抑制の副作用を考える時、3種類のTGFβが存在し、ほぼ同じ受容体を活性化するが、それぞれの発現場所で異なる役割を持っていることに注意する必要がある。もちろん受容体阻害剤は副作用が起こるし、以前紹介した方法はβTGFβ阻害だが、全てのタイプをブロックする。
この研究では心臓の副作用にあまり関係のないTGFβ1を特異的に抑制する方法でこの問題を解決できるか調べている。と言っても、同じ受容体を使っていることから、受容体結合を抑制する抗体の作成は難しい。そこで考えたのがTGFβ1が組織で活性化されるプロセスを抑制する方法だ。
また説明が必要になるが、TGFβは大きなタンパク質の一部で、分泌された時には活性化が抑えられている。この非活性分子は大きなタンパク質と結合することで、地雷のように組織マトリックスの中に埋め込まれる。この状態を活性化するためには、インテグリンを持った細胞が組織に来て活性を抑制している分子を取り外す必要がある。この非活性型を活性化型に変化させる過程を阻害する抗体をスクリーニングし、インテグリンと非活性型TGFβが結合して活性化される過程を抑制できる抗体を作成している。
これをガンを移植したマウスで試すと、単独では全く抗ガン効果はないが、PD-1に対する抗体と組み合わせると絶大な効果がある。その原因を調べていくと、この抗体を組み合わせた時だけ、リンパ球や免疫活性化型のマクロファージがガン局所に蓄積していることがわかる。すなわち、チェックポイント治療でガン組織から排除されたキラー細胞をリクルートできることを明らかにしている。
他にも色々実験を示しているが、以上がメッセージで、TGFβ1直接ではなく、組織内に地雷のように埋め込まれて細胞が来た時に作用するというTGFβ1の特徴を利用して、他のTGFβから区別してTGFβシグナル抑制に成功した面白い研究だと思う。もともと、ヒト型にした抗体を用いていることから、すでに臨床治験も始まっているのではと期待できる。