昨日はサソリ毒クロロトキシンが悪性のガン、グリオブラストーマに結合することを利用したガン治療論文について紹介したが、同じ Science Translational Medicine に、別のサソリ毒 cystine dense peptides (CDP) を、今度は関節リュウマチの治療に使う可能性を示したシアトル・フレッド・ハチソン ガンセンターからの論文が発表されているので、昨日に続いて紹介することにする。タイトルは「A potent peptide-steroid conjugate accumulates in cartilage and reverses arthritis without evidence of systemic corticosteroid exposure (高い効果をもつペプチド〜ステロイド結合体は軟骨に集積して副作用なしに関節炎を治す)」だ。
この論文で初めて知ったが、CDPとは20-60アミノ酸でシステン同士が結合しあうSS結合を多く持つペプチドの総称で、サソリだけでなく、クモ、ヘビから毒のある食物やバクテリアまで多くの生物が合成している。この研究グループは20種類の生物から抽出された40種類のCDPをスクリーニングし、サソリ由来のCDP-11Rが体内の軟骨に選択的に結合するを突き止めている。
この結果がこの研究のハイライトで、この軟骨に集積するCDP-11Rの性質は、関節軟骨に薬剤を集積させ、リュウマチ治療に使えるのではと着想し、そのための様々な準備実験を行なっている。
まず、CDP-11Rが軟骨に集積し、しかも長期間結合し続けること、また動物に移植されたヒトの軟骨にも結合できることを確認し、またこの結合はCDP-11Rの強くポジティブに帯電している性質が関わるが、ペプチド内のSS結合も重要な役割を担っていることを確認している。
この基礎的検討の後、炎症を抑えるステロイド、デキサメサゾンをCDP-11Rと結合させ、関節に集積するか検討し、ステロイドを関節特異的に集積させるキャリアとしてCDP-11Rが使えることを確認している。
最後に、CDP-11Rとステロイドホルモンの結合が徐々に分解されるリンカーを用い、またリュウマチに使われるステロイドホルモンTAAを結合させたCDP-11Rを準備し、コラージェンに対する自己免疫をおこした関節リュウマチラットに注射すると、ステロイドホルモンによる全身副作用が全くないにも関わらず、関節の炎症を治すことができることを示している。
今後人間に応用するためには、定期的に注射して同じ効果が続くか。正常軟骨に副作用はないかなど調べる必要があると思うが、毒を使いこなすのが医学であることを示す面白い例だと思った。しかし、なぜこんな性質が生まれたのか、サソリ毒には興味が尽きない。