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3月30日 静止期2題:1.T細胞(3月13日 Science 掲載論文)

2020年3月30日
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幹細胞を研究していた人間から見ると、世界は長い静止期に入ったように思う。各国政府の対応を見ていると、静止期へのスイッチは様々だが、目的は明確で、特定の資源(この場合は医療資源)の限界を超えると、それを守るために全体の活性を低下させて、この限界に合わせる必要がある。

もちろん細胞から何か習えるわけではないが、3月最後の2日間、最近発表された静止期に関する新しい発見について紹介することにする。最初の今日は、イェール大学からの論文でmRNA全体の活動を低下させて静止期を維持するのに必要な新しい分子BTGについての研究で、3月13日号のScienceに掲載された。タイトルは「mRNA destabilization by BTG1 and BTG2 maintains T cell quiescence(BTG1とBTG2によるmRNAの不安定化がT細胞の静止期を維持する)」だ。

この研究のハイライトは、静止期に関わる分子の同定方法だ。静止期についての研究は多く、これまでエピジェネティックス、転写、代謝、ニッチ、低酸素など様々な分子機構の存在が示されてきた。おそらくどれ一つ欠けても、整然と静止期を保つのは難しいのだろう。したがって、全体を統合する分子だけは静止期でも強く発現する必要がある。このような分子を探す目的で、静止期のT細胞を集め、ヒストンアセチル化を指標にスーパーエンハンサーに近い調節を受けている分子を探し、BTG1とBTG2を特定している。

この分子を強く発現しているのはリンパ球で、特に刺激前や記憶細胞で発現が高い。そこで、それぞれの遺伝子をT細胞でノックアウトして見ると、両方の遺伝子をノックアウトした時だけ静止期のT細胞の低下が見られる。また、弱い刺激でもT細胞は増殖しやすい。このような免疫反応の閾値が低下した結果、感染には強くなるが、逆に免疫反応が起こりやすいT細胞を移植されたマウスでは、腸炎が起こる。

最後に、BTG1/2が静止期を維持するメカニズムを調べるため、ノックアウトT細胞と正常T細胞の比較を行い、mRNA全体の量、および翻訳後のタンパク質の量がノックアウトマウスでは上昇していることを発見する。すなわちBTG1/2はmRNAを不安定化して静止期にmRNA全体の量を低下させていることになる。実際、BTG1/2はCNOTと呼ばれるmRNAのpolyAtailを侵食する酵素および、」polyAtailに結合するPABPと複合体を作ってpolyAを削る速度を高めることを明らかにしている。

以上、T細胞の話ではあるが、細胞全体の静止期を維持するためには、mRNAの量を減らすことが大事で、これまで知られているRNAポリメラーゼの調節による入り口だけでなく、できたmRNAもさらに分解させる必要があることがよくわかった。

これほど静止期の維持は大変だ。明日は、キルフィッシュの休眠、すなわち体全体の静止の機構についての論文を紹介する。

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