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自閉症の科学40 気になる治験 II サッカークラブ参加によるASDの社会性改善

2020年3月9日
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前回はASD児に絵本を読み聞かせたり、説明したり、質問したりする行動が、ASD児の言葉に対する注意を促すことを示す研究を紹介した。2回目の今日は、運動の効果だ。ASD児ではしばしば運動症状が認められる(例えば視覚と手の運動の連携が悪いなどの症状)。また、これらの運動症状とASDの心の問題とは密接に関連していることも知られている。もしそうなら、ASDの子供たちの運動能力を高めるプログラムは、運動能力にとどまらず、社会性や性格の変化をもたらしてくれる可能性が高い。

今日紹介するオーストラリアDeakin大学からの論文は、ASD児にオーストラリア全国で活動している子供を対象にしたサッカークラブAuskickのプログラムに参加させて、社会性や様々な性格に変化が起こるかどうか調べた研究で2月27日Journal of Autism and Developmental Disordersに掲載された。

研究は単純で、61人のASDと確定された5−12歳のASD児を2グループに分け、半分はAuskickクラブ(https://play.afl/auskick)が提供するプログラムを最低12回受けさせ、残りのグループは自宅で普通の生活を送らせる。そしてプログラム終了時に、知能、社会性、性格などを一般的な方法で調べている。

どのようなプログラムを受けるかはそれぞれのクラブに任せており、ハンディキャップを持った子供たちのプログラムに入る場合も、全く普通の子供のためのプログラムに入る場合もある。

結果だが、様々なマニュアルに従った検査については専門的なので、ここは著者らを信用して結論だけを手短にまとめると、次のようになる。

  • 子供も行動を診断するCBCLチェックリストの様々な項目について調べると、全項目を総合した結果、内向性を評価する結果、そして米国精神医学界のDSMマニュアルによる不安神経症の程度が、サッカークラブでプログラムを受けることではっきりと改善した。
  • サッカークラブを経験したASD児は、サッカークラブセッション終了後も、他のプログラムに参加する傾向があった。
  • チームスポーツではあるが、コミュニケーションや社会性の改善ははっきりしない。ただ、CBCLによる社会性の問題は明らかに改善している。
  • 上記の変化はプログラムの強とあまり関係はなく、一般児と同じプログラムでも、ハンディキャップ児と同じプログラムでも同じ程度に改善が見られた。

結局最後までプログラムを受けられたASD児は20人足らずになってしまったため、統計的に結果を信用できるのかどうかなどいろいろ問題はありそうだが、おそらく上手にプランされたチームでやるスポーツは受けさせてみる価値があるという結論になる。

しかしこのためには、上手に管理されたプログラムが必要だ。日本のサッカークラブの現状は知らないが、サッカーの上手な子供を育てることが目的になっていて、なかなかASDの子供まで受け入れる余裕はないのではないかと思う。また、一般児のプログラムにASD児が参加するのを、クラブや親が許すかどうか疑問だ。しかしわハンディキャップを持った子供たちの身体機能や精神機能の促進にも一肌脱いでこそ、我が国もプロ野球大国、サッカー大国になれるのではないかと思う。そんなスポーツクラブが増えることを望んでいる。

3月9日 リンパ組織誘導細胞と神経細胞の相互作用(2月12日 Nature オンライン掲載論文)

2020年3月9日
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現役の頃、IL-7R機能を抑制するとパイエル板が欠損するという発見を皮切りに、吉田さんや、大学院生の本田さん、端さんたちと始めたのが免疫組織を誘導するLTi細胞についての研究だが、LTiが胎児期に腸管の特定の場所だけに集まるプロセスについては納得できる説明はできなかった。ただ、吉田さんたちが最初の場所決めは神経走行で決まるかもなどと話していたのを覚えている。

今日紹介する論文はこの分野をリードするDan Littmanの研究室からの仕事で確かにILC3(LTiも現在はこの呼び名で総称されている)が腸管神経と相互作用して腸内の状態を指示することを示した論文でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Feeding-dependent VIP neuron–ILC3 circuit regulates the intestinal barrier (食物摂取によるVIP神経とILC3の回路が腸管のバリアー機能を調節している)」だ。

この研究はILC3が神経刺激因子とともに、神経ペプチドに対する受容体を発現しているという「気づき」から始まっている。実際示された組織写真を見ると素人でもILC3が神経と密接に相互作用していることを想像する。

そこで、ILC3は主に血管に作用するとされているVIPの受容体(VIPR2)を発現しているので、次にILC3のVIPR2をノックアウトすると、炎症性のサイトカインとともにバクテリアに対するバリアー機能を誘導するIL-22の発現が高まっていることを発見する。

次に本当にVIPを分泌する神経細胞がILC3のIL-22産生に関わるかどうか、CNOで刺激できるようにVIP神経の遺伝子を改変し、VIP神経を刺激すると、IL-22の発現を抑えることを明らかにしている。すなわち、ILC3はVIP神経か興奮してVIPが分泌されると、その刺激を受けてIL-22分泌を抑えるという回路が明らかになった。

すでにIL-22は腸管上皮のバリアー機能を高めることが知られているので、VIP神経を刺激したとき病原菌に対する抵抗力が低下するかどうかを調べると、期待通りマウスの死亡率は高まり、バクテリアは腸のバリアーを超えて脾臓や肝臓に移行する。一方、VIP神経の興奮を抑えると、バクテリアからマウスは守られる。すなわち、VIP神経が興奮すると腸上皮のバリアー機能が低下する。

しかし何故わざわざこんな危ない回路が存在するのか。Littmanらは食事を取った後の栄養摂取を高める目的で、バリアー機能を一時的に抑えるのではと考え、摂食の日内変動を解消した上で絶食させたマウスに食事を取らせたときILC3が刺激されIL-22分泌が低下し、バリアー機能が低下すること示している。そして最後に、このバリアー機能の低下は脂肪吸収を高めることも示している。

以上が結果で、神経―ILC3回路が食事で刺激され、バリアー機能を抑えて栄養摂取を高めることが明らかになった。うまくできているようだが、その結果リスクも高まり、腸内細菌叢、ILC3、神経細胞、そして食事という複雑な回路が出来上がったと考えればいいだろう。発生初期のパイエル板場所ぎめにも神経が関わる確率は高まった。

カテゴリ:論文ウォッチ
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