前回はASD児に絵本を読み聞かせたり、説明したり、質問したりする行動が、ASD児の言葉に対する注意を促すことを示す研究を紹介した。2回目の今日は、運動の効果だ。ASD児ではしばしば運動症状が認められる(例えば視覚と手の運動の連携が悪いなどの症状)。また、これらの運動症状とASDの心の問題とは密接に関連していることも知られている。もしそうなら、ASDの子供たちの運動能力を高めるプログラムは、運動能力にとどまらず、社会性や性格の変化をもたらしてくれる可能性が高い。
今日紹介するオーストラリアDeakin大学からの論文は、ASD児にオーストラリア全国で活動している子供を対象にしたサッカークラブAuskickのプログラムに参加させて、社会性や様々な性格に変化が起こるかどうか調べた研究で2月27日Journal of Autism and Developmental Disordersに掲載された。
研究は単純で、61人のASDと確定された5−12歳のASD児を2グループに分け、半分はAuskickクラブ(https://play.afl/auskick)が提供するプログラムを最低12回受けさせ、残りのグループは自宅で普通の生活を送らせる。そしてプログラム終了時に、知能、社会性、性格などを一般的な方法で調べている。
どのようなプログラムを受けるかはそれぞれのクラブに任せており、ハンディキャップを持った子供たちのプログラムに入る場合も、全く普通の子供のためのプログラムに入る場合もある。
結果だが、様々なマニュアルに従った検査については専門的なので、ここは著者らを信用して結論だけを手短にまとめると、次のようになる。
- 子供も行動を診断するCBCLチェックリストの様々な項目について調べると、全項目を総合した結果、内向性を評価する結果、そして米国精神医学界のDSMマニュアルによる不安神経症の程度が、サッカークラブでプログラムを受けることではっきりと改善した。
- サッカークラブを経験したASD児は、サッカークラブセッション終了後も、他のプログラムに参加する傾向があった。
- チームスポーツではあるが、コミュニケーションや社会性の改善ははっきりしない。ただ、CBCLによる社会性の問題は明らかに改善している。
- 上記の変化はプログラムの強とあまり関係はなく、一般児と同じプログラムでも、ハンディキャップ児と同じプログラムでも同じ程度に改善が見られた。
結局最後までプログラムを受けられたASD児は20人足らずになってしまったため、統計的に結果を信用できるのかどうかなどいろいろ問題はありそうだが、おそらく上手にプランされたチームでやるスポーツは受けさせてみる価値があるという結論になる。
しかしこのためには、上手に管理されたプログラムが必要だ。日本のサッカークラブの現状は知らないが、サッカーの上手な子供を育てることが目的になっていて、なかなかASDの子供まで受け入れる余裕はないのではないかと思う。また、一般児のプログラムにASD児が参加するのを、クラブや親が許すかどうか疑問だ。しかしわハンディキャップを持った子供たちの身体機能や精神機能の促進にも一肌脱いでこそ、我が国もプロ野球大国、サッカー大国になれるのではないかと思う。そんなスポーツクラブが増えることを望んでいる。