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3月19日 相分離現象が形態学を変える(3月13日 Science 掲載論文)

2020年3月19日

皮膚ケラチノサイトは基底層、有棘層、顆粒層と分化し、最後の角化層へ分化するが、顆粒層から角化層にかけて、皮膚を外界から守るバリアー機能が形成される。特に、フィラグリンという分子の変異により、アトピーが起こることがわかってから、顆粒層でのプロセスを皮膚のバリアー機能を準備する段階として研究されるようになった。

さて、顆粒層という名前の由来は細胞内にケラトヒアリン顆粒(KG)が存在するからだが、この顆粒の形成過程や機能についてはほとんどわかっていなかった。今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、KGが、今流行りの相分離現象を反映するのではと着想した大御所フックスの研究室が、これを証明した力作で3月13日号のScienceに掲載された。タイトルは「Liquid-liquid phase separation drives skin barrier formation(液体同士の相分離が皮膚のバリアーを形成する)」だ。

この研究では最初からKG がフィラグリン分子の相分離によって形成されるという仮説に立って進められている。長年皮膚分化あらゆる角度から見続けてきたフックスにとっては当然の結論だし、構造的にもフィラグリンは相分離する可能性が高い。

まずこの仮説を確かめるため、一般的に行われる、相分離を観察したい分子、この場合はフィラグリンに蛍光タンパク質を結合させたケラチノサイトに導入して、確かに相分離が起こることを示している。さらに、KG形成に欠損があるフィラグリンについても同じ方法で調べ、相分離が起こりにくいことを確認し、KGがフィラグリンの相分離により形成される構造であると結論している。

さらに原子間力顕微鏡を用いたKGの観察から、KG形成のオーガナイザーはフィラグリンで、KGへと構造化する分子の種類も、フィラグリンとの関係で決まり、フィラグリンの変異によりKGの成分や力学的性質が変化することまで調べている。

普通の研究はこのへんでよしとなるのだが、さすがにフックスで、蛍光分子を結合させる方法では実際のフィラグリンの相分離能力を正確に測れないと考え、相分離に影響を与えないセンサー分子の開発を行い、正常のフラグリンが相分離した時にそこに集まって蛍光標識できるセンサーを開発している。そして、これらのセンサーを発生段階の胎児皮膚に導入する新しい方法も開発して、実際の皮膚分化で相分離がどのように起こるのか確かめている。完全を求める、この分野の大御所の執念を感じる。

この結果、KG自体がオルガネラのような細胞小器官ではなく、相分離した液体としての性質を持つことを確認するとともに、一つ一つのKGが融合することなく独立したまま大きくなるという面白い特徴を発見する。すなわち、フィラグリンの相分離を調節する別の機構が存在することが示唆され、これにKeratin10(K10)が関わることを明らかにしている。すなわち、K10が相分離してできたKGを隔離して融合を防いでいることを明らかにする。

重要なのは、このKGの形成や構造、さらには構成成分がpHの変化を引き金に大きな変化を示す点で、これにより核が細胞から放出され、角化が進むことまで示している点だ。

話はここまでで、皮膚の機能的バリアーとの関係はまだこれからの課題だと思うが、この分野に新しい方向性を示した重要な貢献だと思う。さらに、相分離という、分子の構造化という現象が、形態学を刺激して新しい分野を形成しようとしていることがよくわかった。

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