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3月22日 再び食研究の難しさ:人工甘味料(3月3日 Cell Metabolism 掲載論文)

2020年3月22日
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昨日に続いて食研究がいかに難しいかを示す論文を紹介する。昨日は、食物成分、身体、そして腸内細菌叢が絡み合って、果糖が脂肪肝を引き起こすメカニズムについての研究を紹介した。これでも十分複雑だが、実際には食は常に味に対する脳の反応を伴い、これによって習慣づけられると、知らず知らずのうちにより甘いもの、より辛いものを求めることになる。すなわち、食を栄養としてだけ捉えることができない。

今日紹介するイェール大学からの論文は栄養と甘みに対する感覚がどのように合同して身体の代謝能力に影響するかを調べた面白い論文で3月3日発行のCell Metabolism に掲載された。タイトルは「Short-Term Consumption of Sucralose with, but Not without, Carbohydrate Impairs Neural and Metabolic Sensitivity to Sugar in Humans(スクラロースを炭水化物と合わせて摂取した時だけ脳と糖に対する代謝感受性を変化させる)」だ。

この研究の目的は人工甘味料の一つスクラロースの糖代謝に対する影響を調べることだ。もともと、ショ糖の600倍もの甘さがあり、カロリー摂取の心配が全くない甘みとして普及してきたスクラロースも、多くの人工甘味料と同様に再検討され、逆に肥満を誘導する可能性を示す論文も散見されるようになった。ただ、疫学研究にしても、動物実験にしても、食の実験だけに条件を揃えることが簡単ではない。ただ、人工甘味料の甘みが強く脳を刺激するので、この効果を栄養から切り離して研究することの重要性が認識されていた。

この研究ではスクラロースを単独で、或いは30gの甘みのない炭水化物と合わせた飲料を2週間に7本摂取させたとき、インシュリン感受性と甘みに対する脳の反応がどう変化するかを調べている。コントロールには30gのショ糖を摂取させ同じように検査している。

簡単な実験だが、結果は驚くべきもので、スクラロースを炭水化物と合わせたドリンクを飲んだ時だけ、ブドウ糖負荷に対してインシュリンがより分泌されるにも関わらず、グルコースを処理する能力が低下し、血糖が上昇するインシュリン抵抗性が生じ、さらに甘みに対する脳の反応が低下することを示している。

この変化はスクラロースと炭水化物を同時に摂取した時だけで、同じカロリーを持つショ糖だけ、あるいはカロリーのないスクラロースだけでは全く起こらない。この実験で炭水化物が含むカロリーはたかだか120Kcalで、トータルで840Kcal、研究期間も2週間と短いので、肥満などの長期の体質変化を誘導する実験ではない。もしショ糖もスクラロースも全く同じ甘み受容体を通して感じられるとすると、強い甘み刺激が実際の栄養と組み合わさった時だけ、急性のインシュリン抵抗性が誘導されたことになる。

残念ながらメカニズムについては何のヒントも示されていない。全く知らなかったが、私たちの腸内にも甘み受容体があるらしく、これが刺激されることでブドウ糖の吸収が高まるらしい。すなわちスクラロースの刺激が強すぎて、その結果ブドウ糖摂取が高まり、インシュリンが普通より多く分泌されることが、インシュリン抵抗性に関わる可能性がある。ただいろいろ説明されているが、私の頭ではなぜスクラロースと炭水化物が合わさった時だけ甘みに対する感受性が低下するのか理解できなかった。炭水化物も何らかのルートで脳に影響しているとしないと説明できない。 いずれにせよ、この結果をそのまま受け入れると、コーヒーにスクラロースを入れて飲むのは問題ないが、食事と一緒にスクラロース入りの飲み物を飲むことはやめたほうがいいという結論になる。甘みが代謝に、栄養が脳に影響するとすると、食を設計することなど夢のまた夢かもしれない。

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