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自閉症の科学41 気になる治験 III ASD児の言葉の能力を高める学校プログラム

2020年3月12日

社会性障害、言語能力低下、繰り返し行動がASDの三大症状などと言われると、何か最終宣告のように聞こえてしまうが、全くそんなことはない。今まで2回にわたって、絵本を通してのコミュニケーション、スポーツクラブに入って他の子供たちと運動する、などのプログラムで少しづつ新しい能力が開発できる可能性を示す論文を紹介してきた。

3回目の今日はバージニア大学のグループが学校で使えるようにデザインした言葉の能力を高めるためのプログラムについての治験研究で3月2日にJournal of Autism and Developmental Disordersに発表された。

このグループは長年にわたってASD児の言葉に関わる能力を高めるためのプログラムや材料を開発しており、この治験は彼らが2014年に開発した「Building Vocabulary and Early Reading Strategies 」というプログラムを小学校の課外授業として実施し、1)話し言葉の能力が改善するか、2)聞き取り能力が改善するか、3)教師がこのプログラムを実行できるか、の3つの問題を調べている。

具体的には5−9歳のASD児43人の参加を募り、まず年齢、背景、ASDの症状を揃えたペアに分けて、そのあとで無作為にペアの一人をプログラムを受ける群、もう一人を受けない群に振り分けている。

プログラムの内容だが、本に書かれた物語を大きな声で音読させることを基盤にして、読んでいる物語の内容を理解する、これまでの知識と比較する、物語をもう一度語る、物語から想像する、などの能力を途中で質問したり、文字に書せたりして意識させていくことで、言葉を使う能力を高めるようデザインされている。

重要なことは、このプログラムを学校で国語(?)の補修科目として組み入れている点で、このためにこのプロジェクトに協力してくれた先生を訓練している。

この補修プログラムは1日30分、週4日続き、全体で平均65セッション行うように計画している。そしてプログラム前後で様々な言語能力をテストして、改善が見られるかどうか調べている。

もちろん二重盲検、プラシーボなどは不可能な治験だが、プログラムを受けたグループは、ボキャブラリーのテスト、語る能力、言語全般の能力などで、受けなかったグループと比較して明確な改善が見られることから、効果は高いと結論している。

私も専門家でないので、言語能力測定に使われたEVT-2テスト、NEPSY-IIテスト、CELF-4テストで見られた改善が、実際にはどの程度なのかイメージすることはできないが、全てのテストでしっかり改善していることが示された。

詳細は専門家に任せることにして、学校で週4日、1回30分のコースが、ASD児の言葉の能力を改善できたことに感心した。おそらくわが国でも同じようなプログラムが開発されているのではないだろうか。大事なことは、これほど多面的な効果が得られるなら、学校での学習過程の中にそのようなプロジェクトが組み入れられ、多くの子供たちがプログラムを受け、その効果が常に検証されることだと思う。

以上、3回にわたって紹介した気になる治験論文は、家庭、スポーツクラブ、学校と異なる場所でのプログラムが少しづつではあってもASD児の能力を高めることができることを示している。思いつきでも、まだまだASDに対しては対症療法が重要であることが良くわかるが、それを治験として検証し、多くの人に使えるようにすることが最も重要だと強調して、ASD児に関する気になる治験シリーズを終える。

3月12日 なぜ脳の興奮と血流量は連結しているのか(3月5日号 Nature 掲載論文)

2020年3月12日

当たり前のこととして認めていることの中には、しかしなぜそうなのかについてわかっていないことも多い。そんな一つが、脳内で神経活動が起こっている領域に選択的に血液上昇が見られるという現象だ。実際、この現象は機能的MRIで脳活動を見るときの前提で、もし血流が脳活動を反映しないとすると、fMRI研究は成り立たない。結局うまくできているなとただ感心するだけだ。

今日紹介するハーバード大学からの論文はこの脳活動と血流の連結のメカニズムに取り組んだ研究で先週号のNatureに掲載されている。タイトルは「Caveolae in CNS arterioles mediate neurovascular coupling (脳の細動脈のcaveolaが神経血管連結に関わる)」だ。

これまで神経血管連結は、神経興奮がアストロサイトが分泌する血管拡張因子、例えばNOなどを介して血流を高めるというシナリオが提案されている。一方、血管側の分子メカニズムは全くわかっていなかった。この研究では、血流調節のキーと言える小動脈血管内皮にcaveolaと呼ばれる膜直下の小胞の数が多いことに着目し、これが神経血管連結に関係あるのではないかと着想する。

これを確かめるため、マウスのヒゲに対する刺激を感じる神経領域の興奮と、その周りの小動脈のサイズを同時にモニターできる実験システムを確立し、ヒゲを刺激して神経興奮が起こると、周りの小動脈が拡張し、血流が上がることを確認している。

この系を用いてcaveola形成に重要なcaveolin-1ノックアウトマウスを用いて同じ実験を行うと、血管拡張が見られない。また、血管内皮特異的にcaveolin-1ノックアウトを行うとやはり神経興奮に伴う血流上昇が見られなくなる。すなわち、小動脈のcaveolaを形成する能力が、脳神経の興奮を感知して血管を拡張させるために必須であることを示した。

この結果がこの研究のすべてで、あと血管平滑筋のcaveolaはあまりこの経路に関わっていないこと、caveolaの形成は脳血管関門に関わる分子Mfsd2aにより抑制されていること、またcaveola依存性メカニズムはNOとは無関係であることなどを示しているが、caveolaとリンクするどのシグナルが血管拡張に関わるかは結局示されなかった。

Caveolaはシグナル伝達を構造的にバックアップする仕組みと考えられていることから、この結果は謎の多かった神経血管連結を理解するためには重要だと思うが、納得できるシナリオまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。

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