アルツハイマー病(AD)の脳については、CTやMRIで萎縮が認められるとか、最近ではアミロイドβ(Aβ)やTauタンパク質のPETによる検出が可能になり、これを用いた病態の解析などについては論文をよく見るが、脳波などを用いた脳の活動についての研究論文は、あまり目にしたことがない。本当は数多くの論文が出ているのだろうが、発表が専門の雑誌にとどまっているからだろう。
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校から脳磁図を、PETによるAβやTauの検出と組み合わせて、リアルタイムの脳活動記録とアルツハイマー病の病変との関連を調べた研究で3月11日号のScience Traanslational Medicineに掲載された。タイトルは「Neurophysiological signatures in Alzheimer’s disease are distinctly associated with TAU, amyloid-β accumulation, and cognitive decline (アルツハイマー病の脳機能的特徴はTauとアミロイドβの蓄積および認知低下と明瞭に相関している)」だ。
研究ではまず脳の電気活動を詳しく捉えることが脳磁図計を用いて、安静時のα波とδ波について、各領域での神経活動が脳全体の活動とどの程度同調しているかについてADと正常で比べている。すると、α波で見た時、後頭葉や左側頭葉では同調性が強く低下している一方、δ波で見ると前頭葉や頭頂葉など比較的広い範囲で同調性が高まっていることを発見する。
このような変化がこれまで明らかになっていなかったのかどうか、判断できないが、これがわかるとあとはPETを用いたAβ、Tauの蓄積や、認知機能など、他の AD指標と相関させることができる。
まず症状との関わりでみると、α波の同調性の変化が認知機能の程度と強く相関しているが、δ波では相関が強くない。すなわち、α波の同調性が症状と最も強く連関している。また、全体の認知機能指標との相関で見ても、α波の同調性低下が最も強く相関していることが明らかになった。
次にAβとTauの蓄積具合との相関を調べると、症状と強く相関するα波同調性低下領域はTau蓄積領域とオーバーラップするが、Aβ蓄積部位との相関はない。一方、δ波の同調性が高まっている領域ではAβ蓄積部位と一致することがわかった。さらに、それぞれの脳磁図の変化は,TauおよびAβの蓄積程度とも相関することも明らかにしている。
以上が結果で、まとめるとAβの蓄積が始まると、その場所でδ波がなぜか同調する。その後、Tauの蓄積が始まると、α波の同調性が特に後頭葉などで低下し、これが実際の認知機能と関わるというシナリオになる。
これまでAβの蓄積で神経活動が変化し、これがTauのリン酸化と蓄積を誘導し、その結果症状が現れるという考えとうまくフィットした結果だ。もちろん、この結果だけでは、なぜこのような脳磁図上の変化につながるのかについてはまだわからない。ただ、病理的な変化を脳神経活動に変換できたことで、病態の解析は確実に進むのではと期待している。