体も精神も、発達期に決まっていくことは多くの研究から明らかになっている。中でも注目されているのは腸内細菌叢の役割で、細菌叢の発達の異常は、成長後の代謝疾患やアレルギーの原因となることがわかってきて、「腸内細菌を育てて将来の健康を実現する」は、多くの国が国を挙げて取り組むモットーになっている。
腸内細菌叢の発達とアレルギーについては先月YouTubeで取り上げたので是非ご覧いただきたいが(https://www.youtube.com/watch?v=Ht9FD38lS74&t=386s)、出生直後の細菌叢の発達は、出産の様式(経膣分娩か帝王出産かなど)と、母乳により決まると言っていい。従って、細菌叢を育てる理想の母乳の研究が進められている。
今日紹介するスペイン・バルセロナのInstitut de Recerca Sant Joan de Déuからの論文は、理想の母乳を求める研究の一つで、母乳に含まれるベタインが腸内細菌叢を育てて、将来の肥満や糖尿病リスクを抑える効果があるとする研究で、本当だとすると重要だ。タイトルは「Increasing breast milk betaine modulates Akkermansia abundance in mammalian neonates and improves long-term metabolic health (母乳のベタイン含有量が多いほど新生児のakkermansia細菌数が増加し、長期の健康的代謝状態を実現する)」だ。
この研究は、母乳の様々な成分と、子供の成長との相関を調べるコホート研究の一環として、葉酸サイクルとメチオニンサイクルから生まれる様々なone carbon metabolitesの量と、1ヶ月、12ヶ月次の体重との相関を調べた結果、6種類の代謝物の中で、ベタインの量だけが、子供の肥満と逆相関することを発見したことに始まる。
人間を用いた調査はここまでで、あとはコホート参加者をさらに長期に追跡し、成長後の代謝への影響があるかどうかを調べる必要があるが、かなり高い相関だったので、とりあえず動物実験で母乳のベタインの影響を調べることにしたようだ。
研究は簡単で、授乳中の母親にベタインを食べさせると、母乳中のベタインが数倍上昇する。新生児をランダムに、ベタインを食べさせた母親と、普通の食事を摂取している母親に育てさせ、成長後6週目に調べると、脂肪量が強く抑制され、体重も抑制され、さらにIL-6濃度からわかる自然炎症も低下していることが明らかになった。
さらにこれらのマウスが24週齢に成長するのを待って、様々な代謝指標を調べると、肥満の抑制、白色脂肪細胞量の低下、さらにはグルコーストレランスまで大きく改善している。また、同じ実験を太らせた母マウスを用いて行っても同じで、ベタインが母乳に含まれているとそれを飲んだ子供の成長後の代謝は改善している。
次に、ベタインの影響が腸内細菌叢を介して起こっているのか調べるために、母親にベタインとともに抗生物質を摂取させ、母乳に含まれるようにすると、抗生物質入り母乳はベタインの効果を打ち消すことがわかり、ベタインの効果が腸内細菌叢を介して起こっていることを確認する。
では、どの細菌がベタインにより変化するのか調べると、2週間目で明らかにベタイン摂取の子供で細菌叢が変化していることが明らかになった。しかし、6週目ではこの変化は全くなくなるので、母乳摂取時だけの一時的変化であることがわかる。
さらに詳しく細菌の違いを調べると、成人で肥満を抑える効果が知られているAkkermansia数がベタイン摂取で増えていること、さらにベタインの代わりにAkkermansiaを1〜3週まで母乳と共に摂取させても、成長後の代謝異常を予防する効果があることがわかった。
結果は以上で、マウスの実験ではあるが、母乳期にAkkermansiaが育っていると、将来の代謝異常を予防することができるという結果だ、今後、人間のコホートでもこれを確かめる必要があるが、もしこの結果が正しければ、母乳期にベタインを積極的に補充することは、プレバイオとして定着するような気がする。