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4月17日 洞窟の土からネアンデルタール人DNAを回収して、洞窟内での人類史を探る(4月21日号 Science 掲載論文)

2021年4月17日
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忘れもしない2017年、古代DNAは骨から採取するものと思っていた私にとって、驚くべき論文が、古代人の骨から採取したDNA研究で先頭を走るライプチヒ・マックスプランク進化人類学研究所から発表された。なんと、土からDNAを回収して、その中から古代生物のミトコンドリアDNAだけを、化学変性を指標に選ぶことで、そこに生きていたネアンデルタール人を含む、多くの動物の存在を特定したという研究だ(https://aasj.jp/news/watch/6788)。

土に還るというと、骨によるバリアーがなくなるため、例えば雨水などで急速に拡散するように思えるが、この研究によると鉱物に守られるおかげで同じ地層に止まることができ、その時代に生きた生物を調べることができるようだ。

今日紹介するのも同じグループからの論文で、4年を経てついに、石器からネアンデルタール人が住んでいたことがわかる洞窟の土からDNAを回収し、洞窟の住人の歴史について推察しようとする研究で4月15日号Scienceに掲載された。ロマンチックなタイトルで「Unearthing Neanderthal population history using nuclear and mitochondrial DNA from cave sediments (洞窟内の沈殿物から回収される核DNA及びミトコンドリアDNAを用いてネアンデルタール人集団の歴史を発掘する)」だ。

この研究では、骨も石器も出土している有名なデニソーワ洞窟、骨が全く見つかっていないEstatuas洞窟、そして1個だけ発見されているChagyrskaya洞窟を選び、様々な有機物が沈殿している様々な層からDNAを抽出し、その中から人類のDNAをハイブリダイゼーションで精製し、そこからDNAの変性の仕方を指標に古代DNAを選択、短い断片のライブラリーを作成している。はっきり言って、あらゆる種類、あらゆる時代の生物が集まったDNAの中から、古代人のDNAを拾い出してくる作業なので、まさに大海の中で針を探すような作業が繰り返されている。これだけで感動してしまうが、努力は報われ、古代人DNAのライブラリーを作ることができた。

もちろんこれだけでネアンデルタール人のDNAとするにはまだまだ不十分で、配列解析から人類以外のDNAを排除していく途方もない作業を行なっている。重要なことは、すでに完全なネアンデルタール人のゲノム解析があるからこそ、土から回収された断片が、本当にネアンデルタール人のものかを判断できる。まさに、骨から初めて、次に土へと範囲を広げることが可能になる。

驚くのは、ミトコンドリアDNA(mtDNA)だけでなく、核内DNA(nDNA)もライブラリーを作成できることだ。

もちろん土に残るDNA断片なので、何人の持ち主から由来するのかを判断するのは簡単ではない。しかし、ミトコンドリアと断片の中のX染色体由来断片の割合を参考にして、なんと場所によっては完全に1人に由来するという断片を採取できている。ただ、基本的には様々な人から由来する断片の集まりになる。

このような複数人から由来する断片を用いて、この研究ではこれまで知られているネアンデルタール人ゲノムとの比較を行い、その洞窟に住むネアンデルタール人の由来を調べている。ただ、論文はまだまだ試行段階といえ、解析に必要なインフォーマティックスを開発したりテストしたりしているといった感じになっている。

それでも骨が全く残っていないEstatuas洞窟では13万年前に起こったネアンデルタール人の分散、及び10万年前の分散の歴史が残っており、異なるネアンデルタール人によって使われたことが明らかになった。

結果は以上だが、これからもっと面白いことがわかるぞという期待が湧いてくる論文だ。今後もなんとか骨を見つけ、完全なゲノムを増やすことが重要だが、点を面へと広げる意味で、このような研究の重要性は計り知れない。

しかしこの研究所での日常がどんなものか是非知りたいと思うし、多くの若い日本人研究者も、ここに参加して新しい人類学、古生物学を学んでほしいと思う。

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