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4月12日 ガンのキラー細胞も休ませたほうがよく働く(4月2日号 Science 掲載論文)

2021年4月12日
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ガン細胞が発現する抗原に対する抗体とT細胞受容体を組み合わせた遺伝子を、自分のT細胞に導入してガンを障害するCAR-Tについては、すでに10回以上紹介している。事実、2014年にThe New England Journal of Medicineに掲載されたリンパ性白血病再発例に対するCAR-Tの効果を知ったときは、ガン治療の新しい時代が来たと確信した(https://aasj.jp/news/watch/2309)。

しかしあれから10年近く経って振り返ってみると、半分近くはCAR-Tの効果が失われ、いまだに固形腫瘍治療はうまくいっていないことから、大ブレークとは行かなかったようだ。すなわち、ガンを効率よく障害するための至適な条件がまだわかっていない。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文はCAR-T刺激が続くことで起こる細胞の疲弊を、持続的刺激を止めることで抑えてキラー活性を復活させる方法についての研究で4月2日号のScience に掲載された。タイトルは「Transient rest restores functionality in exhausted CAR-T cells through epigenetic remodeling(一過性にCAR-Tを休ませることでエピジェネティックな再構成が起こり機能が回復する)」だ。

T細胞は刺激を受け続けると、疲弊して機能が失われる。これが免疫が一過性で終わる重要な要因で、本庶先生のチェックポイント治療も、この疲弊を止めるものだが、刺激システムをエンジニアしたCAR-Tでも同じ疲弊はおこる。

このグループは、抗原が存在しない時でも、CAR-T受容体が自然に重合してシグナルが入ることが疲弊の原因でないかと以前から提案しており、これを確かめるためにCAR受容体のタンパク分解を薬剤で調節できるシステムを構築し、一定期間CARからのシグナルが止まるようにしたCAR-Tを作成して、CAR―Tを休ませる効果を調べている。

結果だが、CARを分解させてシグナルを一定期間止めたあと、もう一度機能を調べると、抗ガン活性が大幅に改善する。この原因について細胞レベルで詳しくみてみると、4日程度休ませることで、PD-1も含め疲弊型の遺伝子発現が抑えられ、逆に記憶T細胞型の遺伝子発現が高まる。ただこの効果は、PD-1に対する抗体の効果を遥かに上回る、大きな遺伝子発現の変化を伴っている。また、抗ガン効果もPD-1抑制と比べて高い。

この大きな変化の原因を知るため、ATAC-seqを用いてクロマチン構造を調べると、休ませることにより、記憶T細胞型遺伝子のクロマチン構造がオープンになり、逆に疲弊型クロマチン構造が閉じることがわかった。さらに、このような多くの変化の誘導に関わるポリコム遺伝子によるヒストンのメチル化を調べると、ポリコム分子依存的に疲弊型のクロマチン構造が、記憶型に変換することが明らかになった。

話としてはこれで十分だが、この研究では実際の臨床を想定して、CAR-Tをエンジニアするのではなく、薬剤で同じ効果が得られないか調べ、最終的に特異性の低いチロシンキナーゼ阻害剤dasanitibを、CAR-T投与後1週間に3日づつ投与して休ませることで、抗腫瘍効果を高められることを示している。

結果は以上で、チェックポイントだけでなく、T細胞の状態をモニターしながら、休ませるときには休ませると、高い効果が得られる可能性を示唆する重要な研究だと思う。

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