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4月28日 新型コロナウイルス感染は、妊婦さんに対してどれだけ危険か?(JAMA Pediatrics 4月22日号掲載論文)

2021年4月28日
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少なくとも関西では、遅れるワクチン接種を嘲笑うかのように、新型コロナウイルスが猛威を奮い続けている。大阪ではなんと自宅待機者が1万人を超えているということで、当然家族内の伝播は必至だ。しかも今回のタイプは子供にも同じように感染するとなると、新しいフェーズに入ったと言えるのかもしれない。

この状況を見て心配になるのは、様々な弱者への感染拡大だ。そこで、今日は妊婦さんへのCovid-19感染の問題、明日は自閉症児のマスク着用の問題について、急遽論文を紹介することにした。

今日紹介するオックスフォード大学を中心とする10カ国以上の病院が集まった国際チームからの論文は、各国でCovid-19に感染した妊婦さんと胎児の経過を、非感染の妊婦さんと比べて、感染が及ぼす妊婦さんと胎児への影響を調べた研究で、4月22日号のJAMA Pediatricsに掲載された。タイトルは「Maternal and Neonatal Morbidity and Mortality Among Pregnant Women With and Without COVID-19 Infection The INTERCOVID Multinational Cohort Study (Covid-19感染の妊婦さんや胎児の合併症や死亡率に及ぼす影響を非感染妊婦さんと比べる:Intercovid 多国間コホート研究)」だ。

なぜ最初にこの論文を取り上げることにしたかというと、昨年6月、このHPで「新型コロナ感染と出産」というタイトルで、いくつかの論文を紹介し(https://aasj.jp/news/lifescience-easily/13331)、

  • 妊娠しても感染リスクが上がることはない、
  • 感染により胎児の発生異常が生じる確率はほとんどない、
  • 母親から胎児への感染はない、

とまとめておいた。

そのまま読むと、感染しないに越したことはないが、間違って感染してもクヨクヨすることはないという結論になる。

ところが、今日紹介する論文は、ほぼ1年の経験を経て、もう少し深刻な結果になっているので、注意を促す必要があると感じ、緊急で取り上げた。

この研究では、706人のCovid-19に感染した妊婦さんと、条件を合わせた1424人の非感染の妊婦さんを、妊娠期間、出産入院、退院まで追跡、その間に見られた様々な合併症、死亡率などを、妊婦さんおよび胎児について調べている。

結果は深刻で、Covid-19感染により、

  • 妊娠による子癇リスクが1.76倍に上昇する。
  • 妊婦さんの妊娠中の死亡率(当然Covid-19によるものも含まれる)が22倍に上昇する。
  • 早産のリスクが1.59倍に上昇する。
  • 低体重児のリスクが1.58倍に上昇する。
  • 新生児の重症合併症リスクが2.66倍に上昇する。
  • 新生児死亡率が2.14倍に上昇する。
  • 13%で子供への感染が見られる。特に帝王切開児でリスクが高い。幸い、母乳からの感染はほとんど認められない。

以上、1年を経過して、Covid-19の妊娠経過への強い影響が示されたので急遽紹介した。

重症化はともかく、新しい変異型ウイルスの感染性は間違い無く高いので、妊婦さんは緊急事態宣言の有無にかかわらず、感染しないためのあらゆる努力を払って欲しいと思う。混乱するだけかもしれないが、将来を担う子供を考えると、妊婦さんもワクチンの優先接種対象にしてもいいぐらいだ。

4月28日 2種類の大腸ゴブレット細胞(4月16日号 Science 掲載論文)

2021年4月28日
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腸上皮を覆う粘液は、便通を助けるだけでなく、バクテリアに対するバリアーとして働き、腸を炎症から守っている。実際、慶應の本田さん達の総説では、特殊なsegmented filamentous bacteriumと分類される細菌や、上皮と接着できるようなバクテリアを除くと、粘膜は細菌の侵入を跳ね返していることが示されている(Nature 535, 75, 2016)。

今日紹介するスウェーデン ヨーテボリ大学からの論文は、大腸ではこの粘液が決して均一な単純な分泌物ではなく、2種類の異なるゴブレット細胞から分泌される粘液が組織化されていることを示した面白い研究で、腸の粘液について理解するという意味でも重要な論文だと思う。タイトルは「An intercrypt subpopulation of goblet cells is essential for colonic mucus barrier function(

クリプト間に存在するゴブレット細胞の亜集団は大腸の粘液バリアー機能に必須)」で、4月16日号のScienceに掲載された。

ヒトとマウスを行き来しながら実験を重ねていった力作で、この論文を読んで初めて、ただベタっとした均質な粘液層というイメージが、細胞内マトリックスと同じように違う成分が複雑に絡み合った構造のイメージへと変わった。

研究の目的は最初から腸内粘液層の生成過程を調べることで、そのためまず粘液を分泌するゴブレット細胞を分離し、ゴブレット細胞特異的遺伝子をリストした上で、分離したゴブレット細胞をsingle cell RNAseqで解析、大腸だけで増殖性の前駆細胞から2種類の異なる系列のゴブレット細胞が形成されることを示している。私自身ゴブレット細胞と言うと一種類の細胞をイメージするので、共通の前駆細胞から2系統が分化すると言うのは新鮮で、single cell RNAseqのパワーをまたまた再認識した。

こうして明確になった2種類のゴブレット細胞の局在を調べると、クリプト内に存在する通常のゴブレット細胞と(cGC)、より上皮に近い遺伝子発現を示すクリプト間の上皮内に存在するゴブレット細胞(icGC)。すなわち、腸管腔に直接出ているのがicGCで、組織内に陥没しているクリプト内に存在するのがcGCになる。

それぞれの細胞の遺伝子発現の違いから、粘液合成に重要な糖添加過程に関わる遺伝子を調べると、両者を区別する経路が存在し、その結果糖に結合するレクチンのうち、WGAはcGCに、UEA1はicGCに見られることが明らかになった。すなわち、レクチンの結合の違いで簡単に両者を区別できる。また、粘液自体も同じレクチンの結合の違いで区別できることがわかった。

このおかげで、クリプト内で合成され管腔へと出てくる粘液と、icGCで作られた粘液が、上皮直上では別々の場所に局在し、それが内腔側へ成長する過程で混じり合っていくことを見事に示している。

機能的には、icGC由来の粘液は、バクテリアなど1ミクロン単位の分子をブロックするが、クリプト内の粘液はさらに小さな分子もブロックして幹細胞を守っていることもわかる。また、完全に特異的ではないが、遺伝子操作でicGCの数が年齢とともに急速に低下するマウスを作成し、クリプト内のバリアー機能は守られていても、歳とともに管腔の粘膜層が薄くなり、バクテリアが上皮近くに迫っており、腸炎の危険性も高まっていることを示している。

最後に、人間の潰瘍性大腸炎の患者さんの大腸のバイオプシーを行い、活動期だけでなく、寛解期でもクリプト間に存在するGCの数が低下していることを示している。

以上、腸内の粘液層についてしっかり勉強できたと言う満足の読後感のある論文だった。

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