昨日紹介した梅森論文のシナプス剪定もそうだが、とっくにわかっていると思い込んでいるだけで、分子メカニズムが明らかになっていなかった重要な過程は多く存在する。今日紹介する論文もその典型で、タイトルを見たとき、「え!こんなことがわかっていなかったの」と唸ってしまった。なんと、細胞周期のG1期からS期への移行に関わるG1サイクリン、CycDの分解に関わるユビキチンリガーゼを発見したという論文が3編も4月14日Natureにオンライン掲載された。
CycDは、G1期に誘導されS期まで一定レベルを維持し、分裂期に入ると分解されてしまう。S期、G2期、分裂期と別々に発現が上下するCycE, CycA, CycBと違い、各時期で発現が維持されてはいるが、必ず分解されてしまう。この分解にはユビキチンリガーゼとたんぱく質分解酵素が関わることがわかっていたが、最初のユビキチン化を誘導する分子が何か決まっていなかったらしい。
今日紹介する論文は、このユビキチン化にAMBRA1分子が関わるという話で、結論は同じでも、違う角度から取り組んできたグループが同時に発表している。
最初の論文はデンマーク・ガンセンターを中心にしたグループで、もともとAMBRA1の機能に興味を持ち、AMBRA1のノックアウトマウス解析を行う過程で、 AMBRA1がCycDと結合して分解を調節していること発見している。
次の、ニューヨーク大学からの論文は、逆にCycDの分解に関わる分子を様々な方法でスクリーニングする過程でAMBRA1を発見している。
そして、最後のスタンフォード大学からの論文は、乳ガンなどに広く使われる様になったCDK4/6(CycDを活性化するキナーゼ)阻害剤抵抗性が誘導される過程に関わる分子を探索する中で、AMBRA1がCycDのユビキチン化に関わることを発見している。
別々に紹介するのは馬鹿げているので、これらの論文からAMBRA1について重要な点をピックアップしておく。
- AMBRA1はリン酸化されたCycDをユビキチン化する唯一のE3ユビキチンリガーゼ・アダプター。
- AMBRA1が欠損すると、CycDの分解が起こらず、その結果としてRBのリン酸化が続いて、細胞周期の抑制が効かなくなる。
- その結果、AMBRA1が欠損すると、細胞増殖の制御が効かなくなり、巨脳症などの様々な異常が起こる。
- 増殖が高まることで、ミスマッチ修復のためのチェックポイント制御が効かなくなり、細胞死が起こる。
- AMBRA1はCycDを分解することで、RB1を介して一種のがん抑制遺伝子として働いている。実際、多くのガンでこの分子の発現が低いと予後が悪い。
- 現在使われているCDK4/6阻害剤の効果がAMBRA1発現低下により失われる。これは、CycDの量が増えることで阻害剤が効きにくいこともあるが、CDK4の代わりにCDK2と結合して機能を発揮するためで、実際CycDとCDK2の結合を阻害すると、CDK4/6阻害剤の効果が復活する
以上が結果で、発生やガンを理解する上で重要な分子が今まで発見されなかったこと、そしてほぼ同時に三方からAMBRA1のCycDユビキチンリガーゼ活性が発見されたのに驚いた。