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4月23日 Covid-19ワクチンの副反応1: mRNAワクチン接種によるアナフィラキシーに関する問診(米国アレルギー、喘息、免疫アカデミーからの勧告)

2021年4月23日
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今日の論文ウォッチはあまりにマニアックだったので(https://aasj.jp/news/watch/15431)、Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practiceに掲載された、米国アレルギー、喘息、免疫アカデミーが発表したCovid-19ワクチン接種時の問診についての勧告をエクストラで紹介することにした。

この勧告を読んでいると、先手先手を打つことの重要性がよくわかる。現在、米国ではなんと1日200万人のワクチン接種が行われている様だが、これがバイデン新政権とかぶって、政治のリーダーシップの重要性が印象づけられる。

一方、我が国では、来週から3回目の緊急事態宣言だ。必要なら緊急事態宣言を発することは当然のことだが、この事態に対応する準備が1年前と全く異なっていないことに驚かされる。なぜ1万人以下の感染者で医療崩壊が起こるのか、聞こえるのは言い訳と責任転嫁ばかりで、政治も行政も無能を曝け出している。しかも、医療崩壊目前になって初めてアクションを起こすと言う体たらくだ。

この無能をカバーできるのはワクチンだけだと思い知った様だが、最初の頃「我が国の感染者は少ない」、「ワクチン開発には10年かかる」「国産が安全」「他国の様子を見てからで良い」などと、間違った意見を耳にした結果の初動の遅れで、今になってもワクチンが足りず、医療従事者すらまだ接種が終わっていないという有様だ。実際には、ウイルスゲノムが発表された1月10日の遺伝子配列を参考に、1月14日にはモデルナは人に接種できるワクチンを用意していた。

最近白井聡さんの「主権者のいない国」を読んだが、そこで述べられていた、我が国の政治家にとっても、また彼らを選んでいる国民にとっても、「向き合うべき社会が存在しない」、という観点はコロナ問題で露呈した我が国の問題をうまく説明していると首肯する。

呆れて非難する気も失せるが、なんと連休はしっかり休んでから接種スタートと言う悠長な話とはいえ、ともかく一般へのワクチン接種はようやく始まる。この時、ファイザーであれ、アストラゼネカであれ、問題は以前紹介したアナフィラキシー副反応だ(https://aasj.jp/news/watch/14641)(アデノウイルスワクチンによる血栓は接種時の問題ではない)。

これに対応するため、現場で問診をしながらワクチンを打つと言う話を聞くが、おそらく時間だけかかって混乱するだろう。前回紹介した同じ米国アカデミーからの勧告では、4つの質問、

  1. 以前注射を受けた時強いアレルギー反応が起こらなかったか?
  2. ワクチン接種でアレルギー反応が起こった経験はないか?
  3. 食べ物、ハチ刺され、ラテックスに対してアレルギー反応を起こしたことがあるか?
  4. PEGやPolysorbateを含む注射に対するアレルギー反応の経験はあるか?

を予め読んでおいてもらって、質問4がyesでなければそのまま接種、yesの場合も30分経過観察で良いとしている。

今回はその後の経験を通した改訂版になるが、我が国でも見られた医療従事者にアナフィラキシーが多いと言う結果を考慮して作られたバージョンになる。

まず、アナフィラキシーの経験があるか(質問1)を聞いて、Noであれば文句なく何も聞かずに接種。

次に、あると答えた人には、ワクチンに関連するアナフィラキシーの危険がある具体的抗原を提示する

1、ポリソルベート80、2、ポリエチレングリコール、3、ポリエチレングリコール入りワクチン(mRNAワクチン)、そして4)ポリエチレングリコール入り経口剤(便秘に用いるミララックス)、

(質問2)。

この質問に対し、ポリソルベート80に反応したと自分で特定できる人は、これが含まれていないmRNA ワクチンへ誘導する。とくに、この分子に対する反応を繰り返した病歴がある場合は医師に相談。いずれにせよ接種すると決めれば30分経過観察。

ポリエチレングリコールが含まれる製品に反応した経験がある場合(例えば1回目のmRNAワクチンに反応した人)、米国の場合ヤンセン(我が国ではアストラゼネカなど)といったポリエチレングリコールを含まないワクチンに回し、30分の経過観察。

最後にポリソルベートにも、ポリエチレングリコールにも反応した場合は、医師に相談する。ただ医師に相談した場合も、ワクチンのベネフィットは大きいので、接種の方向で考えると言う勧告だ。

医療関係者ならともかく、一般の高齢者にこのような質問は混乱を招くだけではないかと心配はあるが、ポリエチレングリコールやポリソルベートが含まれている製品は多いわけではないので、日本人の民度であれば自己判断する工夫はあるように思える。

いずれにせよ、接種の基準をきめる我が国のガイドラインも必ずできているはずで、この様な新しいガイドラインも参考にして、安全かつ迅速に、mass shootingをすすめることで、政治家や一般市民ですら向き合うべき社会を失った我が国でも、医学会には「向き合うべき社会は存在する」と胸を張って言ってほしい。

4月23日 双方向に回転できるTCAサイクル(4月23日 Nature 掲載論文)

2021年4月23日
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まずWikipedia Creative Commons 掲載のTCAサイクルの過程を見てみよう。

Wikipedia :https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Citric_acid_cycle_with_aconitate_2_ja.svg より転載。

おそらく高校、大学で習ったように、細菌から人間まで、物質からエネルギーを合成するための最も基本的回路だ。ここでの矢印を見てもらうと、糖や脂質の参加により生成されたアセチルCoAがオキザロ酢酸からクエン酸への転換経路に組み込まれ、ぐるっと回ってくるうちにNADHなどが生成される。

これが無生物から生物の誕生過程(Abiogenesis)の早くから物質を作る基本過程になっていたのではと考える証拠がいくつか存在する。その一つは、この回路の中間生成物は、酵素が存在しない条件でも鉱物の触媒作用により合成されサイクルを形成できることを示す論文が報告されている。

Abiogenesisに興味がある私にとっては驚くべき論文だったので、今も講義で利用している。

もう一つの証拠は、光合成なしに有機物を自分で合成できるAutotorophでは、TCAサイクルの方向性を決める不可逆過程を異なる酵素過程で置き換えて、クエン酸からアセチルCoAを介してピルビン酸を合成する逆の過程を動かし、無機物の炭酸ガスの炭素を同化することができることがわかっている。

実際、鉱物触媒で形成されるTCAサイクルでも矢印はピルビン酸合成の方向に向いている。

今日紹介する論文は、Autotorophの中には、単純にTCAサイクル逆回しではなく、どちらにでも回転させられる古細菌が存在していることを示した論文で4月21日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「High CO 2 levels drive the TCA cycle backwards towards autotrophy (高いCO2濃度がTCAサイクルを逆回しして自己栄養を可能にする)」だ。

この研究では、データベースの解析とTCAサイクルに関わる酵素の検討から、逆回しのシステムではなく、一般的なTCAサイクルにクエン酸合成酵素を組み入れることで、逆回しが可能であることを明らかにしている。実験としては、炭酸ガスの炭素をアイソトープ標識し、それがTCAサイクル由来のアミノ酸のどの部位に組み込まれるかを調べ、分解の酸化サイクル、合成の参加サイクルのどちらも稼働することを示している。

その上で、逆回しするための自由エネルギーの壁を越える方法に、このような酵素がCO2そのものを使っていることを実験的に明らかにしている。すなわちCO2が高い環境では、合成型のTCA サイクル逆回りが起こり、物質が合成される。その結果、外部から栄養がなくても、生存できることを示している。

実験的にはこれだけだが、生命誕生のあとのCO2の高い地球環境を考えると、還元酸化両方のサイクルがCO2濃度に応じてバランスを取るという話は、確かに魅力的だ。そして、このような生物が現在もなお、サーマルベントのような条件で生きていることに深い感動を覚えてしまう。

カテゴリ:論文ウォッチ
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