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6月9日 コロナウイルスRNA合成酵素のFe-S依存性:プロとアマの違いを感じる論文(6月3日 Science オンライン掲載論文)

2021年6月9日

クライオ電顕のおかげで、新型コロナウイルス(CoV2)の様々な機能タンパク質の構造解析は急速に進んだ。この結果と思うが、ウイルス分子を標的にした薬剤開発も、単純なハイスループットスクリーニングではなく、タンパク質の構造から化合物をデザインする方向性がうまくいっているように思う。例えば、以前紹介したCoV2メインプロテアーゼの阻害剤のように、臨床治験にまで進んだファイザー社の化合物は、3次元構造を元に小さなユニットを組み合わせて設計された阻害剤だ(https://aasj.jp/news/watch/15255)。

この辺になると、私のようなアマチュアには到底計り知れないプロのセンスが必要になると思う。このようにCoV2、特にRNA合成酵素を見る眼差しのプロとアマの差をはっきり示す論文が米国NIHから6月3日Scienceにオンライン掲載された。タイトルは「Fe-S cofactors in the SARS-CoV-2 RNA-dependent RNA polymerase are potential antiviral targets (SARS-CoV2のRNA 依存性RNAポリメラーゼ中のFe-Sコファクターは抗ウイルス剤の標的になりうる)」だ。

現在、直接ウイルスに働きかける薬剤として認可されているのはRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)の作用でウイルスRNAに取り込まれ不安定化させるレムデシビルだが、間違いなくこのおかげで多くの命が救われた薬剤だ。もちろんnsp12/nsp7/nsp8が複合体を形成したRdRbの構造とレムデシビルの関係も解読されており、この薬剤の有効性を科学的にバックアップしている。

私のようなアマチュアは、この構造解析になるほどと感心し納得するが、プロにとっては気に掛かる点があるらしい。RdRpについてのほとんどの構造解析で、CoVで保存された箇所に亜鉛が結合していることが示されている。亜鉛との結合が必須のタンパク質など数え切れないぐらい存在するので、アマチュアはなるほどと納得するが、プロが見ると、実際には亜鉛の代わりに鉄と硫黄からなるFe-Sコファクターが同じ場所で活性に関わっているのではと疑ってみるようだ。

このグループは、タンパク質がFe-Sコファクターと結合しているかどうかを予測するソフトを開発しており、これを用いてnsp12を解析したところ、これまでFe-S合成に関わるとされてきたHSC20との結合部位にFe-Sが存在する可能性が示唆された。

次に鉄の同位体を用いて、Feがnsp12と結合していること、また酸化環境の中で精製したnsp12ではこの結合が失われていることを示している。そして、無酸素状態で精製したRdRp複合体にはFe-Sコファクターが結合しており、有酸素化で普通に生成したRdRpより強くRNAに結合することを示している。

これはRdRp複合体とヘリカーゼnsp13との結合がFe-Sコファクターにより安定化されることで、結論としてRdRpの活性は、亜鉛との結合でも維持されるが、高い活性、特にヘリカーゼと協調しながら複製するときにはFe-Sコファクターが必要であることを示している。

Fe-Sとタンパク質の結合が、活性酸素のスキャべんジャーとして開発されたTEMPOLにより阻害されることがわかっているので、最後にウイルス感染細胞をTEMPOLで処理すると、たしかにnsp12からFe-Sが遊離していること、そして400μMという少し高い濃度ではあるが、細胞中でのウイルス複製を抑えることを明らかにしている。

基本的なコファクターは様々な分子と結合しており、薬剤として使うと問題があるのではと思うが、この濃度では目立った問題は細胞レベルでは出てこないようだ。さらに、レムデシビルと相乗効果もあるようで、ひょっとしたら病院レベルで利用される薬剤になるかもしれない。

以上、論文だけからは本当に治療薬として使われるかどうかははっきりしないと思うが、しかしプロの目で見れば、これまでのデータから新しい創薬標的が見えるという典型例で、感心した。

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