最近のスマートウォッチでは心電図から酸素飽和度まで測定可能になっているが、もしこのレベルの異常が見つかれば、即、医師の診察室へ直行する必要がある。どの程度の数の人が、スマートウォッチで異常が出たからと医師を訪れているのか興味がある。実際には、年に一度の検診と比べたとき、毎日心電図を取る意味はそれほどないように個人的には思う。
このように、どうしても医学ツールとしてセンサーを発展させようとする試みがある一方、ほとんどのスマートウォッチでは、様々なセンサーを使って日々の体の活動を記録することができる。こちらの方は、定期検診では得られないデータで、ウェアラブルセンサーが普及して初めて可能になった。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、個人の活動性を調べたウェアラブルセンサーデータを病院での検査データと相関させるための機械学習開発で5月24日Nature Medicineにオンライン掲載された。タイトルは「Wearable sensors enable personalized predictions of clinical laboratory measurements(ウェアラブルセンサーを用いると病院での検査結果を個人レベルで予想できる)」だ。
個人的には、ウェアラブルセンサーは診断ツールとしての機能を磨くのではなく、個人の活動を記録し蓄積し、それを利用できるようにする方向で開発を進めて欲しいと思うが、この研究ではアップルウォッチ ではなく、Intel Basisを用いて、心拍数、運動、体温、そして皮膚電位の4項目について持続的に計測し、同時に対象者に月一回のペースで血液検査を行い、それぞれのデータに相関があるか調べている。
月一回の検査では、体温や心拍数も調べるが、毎日のデータの精度は圧倒的に高く、例えば日内周期はウェアラブルセンサーでないと拾えない。すなわち、アクティビティーと時間から推定される、いつどのような状況で測定したかも含めると、この4つの指標はなんと153のデジタルデータになる。
次にこれを血液検査と相関させると、それぞれの血液検査結果と相関するデジタルデータを抽出することができる。血液電解質を除くと、ほとんどの検査とデジタルアクティビティーを相関させることができる。
面白いのは、最も相関が高いのがヘマトクリットや、赤血球数などの血算データで、おそらく何らかの感染症や炎症を反映しているのだろう。残念ながら、この研究では病名までは対応させていない。
最後に、それぞれの検査データ値を、集団レベルの正常値に合わせるのではなく、月一で検査した平均値を用いて、そこからの変化と相関させると、より高い相関が見られ、この方法だと、血中電解質でも強い相関が見られるという結果だ。
以上、機械学習を磨けば、精度の高いアクティビティー記録がいかに役に立つかを示した研究だと思う。
私もスマートウォッチを愛用しているが、問題は機械学習により診断し、それを個人にフィードバックしたり、医療で用いたりするための基盤が必要になる。すなわち、医療の領域に入るためのregulationなどの議論が必要になる。そろそろ、マーケティングの目的ではなく、本当に医療に参入するための議論を始めてもいいように思う。