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6月30日 新型コロナウイルスを発見するマスク(6月28日 Nature Biotechnology オンライン掲載論文)

2021年6月30日

ちょうど1年前、中谷医工計測技術振興財団の理事会で、我が国の新型コロナ研究の緊急助成を提案したら、承認いただき、最終的に45人の研究者に200万円−600万円の助成を行うことができた。最初、本当に応募する研究者がいるのかについても心配したが、短い公募期間にもかかわらず多くの方に応募いただいた。

このようなテーマが決まった助成審査の場合、一番ワクワクするのは申請書を読むときだ。どれだけ常識を超えた、ぶっ飛んだ申請が出てくるのかと期待して読み始める。特に今回は世界が苦しんでいる感染症だ。しかし、期待は裏切られ、読み終わったとき、正直完全にガッカリしてしまった。すなわち、1人でも常識外れの研究者が出ればと期待した今回の努力も、残念ながら普通の研究助成に終わってしまったことを実感した。

このときぶっ飛んだ申請として頭に描いたのは、例えば全く新しい技術の開発といったものではない。短期間に仕上げる必要があることから、既存の技術をいかに新型コロナ向に仕上げるかというアイデアの競争になる。

あれから1年経ったが、今日紹介するMITからの論文は、ウイルス検出システムを組み込んだマスクの開発で、一見馬鹿げて聞こえるが、なんでもやってみるという意味では感心する研究だと思う。タイトルは「Wearable materials with embedded synthetic biology sensors for biomolecule detection(生体分子検出のための合成生物学的バイオセンサーを組み込んだ、ウエアラブル素材)」だ。

このグループの目的は試験管内用に設計された生体分子検出反応システムを、ウエアラブルにして、体内、体外からの分子を検出できるようにするユニバーサルなシステムの開発で、技術自体に目新しいものはない。

しかし、現在利用できる様々な技術についての広い知識と、実際の使用状況想定したシステム開発についてのアイデアが必要で、この研究では、

  1. 全ての反応液が凍結乾燥され、ウエアラブルのプラスティックレイヤーにはめ込んだ反応システムを用いて、チェンバーに入ってくる飛沫内の分子を検出するようにしている。
  2. 最も重要なのは、一旦反応が始まった後、多くの水分で薄まりすぎたり、逆に乾いてしまわない工夫で、最終的に1時間の乾燥により失われる水分が20%以下になるように設計している。
  3. 基本的には、反応が始まると、DNAが転写される過程、転写されたRNAが翻訳される過程を、様々な分子で調節可能にして、チェンバーに入ってきた標的分子を検出できるようにしている。
  4. これまでの研究で、Toehold法や、リボスイッチなどのRNA テクノロジーを用いて、タンパク質から核酸まで多くの標的を検査可能にしている。
  5. それぞれのチェンバーにオプティックファイバーを設置して、蛍光などの分子も検出できるようにしている。
  6. そして圧巻は、以前紹介したCas12などの1本鎖を切断するクリスパーシステムを用いたSHERLOCK((https://aasj.jp/news/watch/14464)を組み込んで、RNA調整から反応までの全てをマスクに組み込んで、体外からあるいは体内からの新型コロナウイルスを、高感度で検出できるシステムを作り上げている。おそらく、抗原検査も同じプラットフォームで可能なら、もっと簡便なウイルス検出システムも可能かもしれない。

以上が結果で、ジャケットからマスクまで、全て実際に完成品を仕上げている。またマスクにより100万粒子が検出できることを示して、現実性があることを強調しているが、個人的には、ぶっ飛んだとまではいかないが、マスクでウイルスを検出しようとしたことを評価したい。

このような話を紹介すると、費用はどうか、現行の方法が優れているとか、評価は慎重になどとアドバイスする、したり顔の専門家が必ず出てくる。しかし、馬鹿げていると思えることにチャレンジすることが重要で、意味があるかどうかなど後から議論すればいい。したり顔は、一般の人に対する説教にはいいが、若い研究者には似合わない。何でもやってみよう。

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