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6月27日 代謝を改善するファイバースナックの開発(6月23日 Nature オンライン掲載論文)

2021年6月27日

「代謝を改善するファイバースナックの開発」などと書くと、世界中の食品メーカーが開発にしのぎを削っている話で、Natureに掲載される様な研究には当たらないのではないかと思ってしまう。しかし、一つの標的分子を狙う薬理学と異なり、様々な因子が長期間にわたって絡み合う栄養学は全く新しい手法が要求される、まさに21世紀の研究分野だと言える。そして、これを理解したトップジャーナルが、自ら新しい栄養学を育てるべきだと考え、新しい栄養学の論文を掲載し始めている。その一つの例が、先日紹介したScienceに掲載された乳児の炎症を抑えるビフィズス菌についての論文で、新しい栄養学での科学的因果性のレベルを示した研究だ。

今日紹介する腸内細菌叢と代謝についての研究の第一人者Jeffery Gordon研究室からの論文は、人間の代謝の変化を促す植物繊維プレバイオの研究とはどうあるべきかを世に問う研究で、6月23日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Evaluating microbiome-directed fibre snacks in gnotobiotic mice and humans(腸内細菌叢をターゲットにしたファイバースナックを、便移植された無菌マウスと人間で調べる)」だ。

Gordonさんの膨大な数の論文の中でも、2013年に発表された論文は、その徹底性に驚いた。研究は、肥満の一つの要因に細菌叢があることを示す目的で、肥満の人の便をマウスに移植する研究だが、なんと遺伝要因を一定にするため、一卵性双生児で片方だけが肥満というケースを選び出し、細菌叢の違いだけで説明できる肥満要因があることを見事に示した研究だ(https://aasj.jp/news/watch/424

その後この研究は発展して、肥満を誘導する食事で減少しているBacteroidesを中心とする細菌叢が増えることで肥満が防げること、植物繊維の投与で、高脂肪食でもBacteroidesを増加させられることがわかっていた。

この研究は、これまでの研究をさらに進めて、高脂肪食により維持されるヒト肥満型腸内細菌叢を、正常型細菌叢に変化させるための植物繊維スナックを、その効果を科学的に検証しながら開発しようとした前臨床研究、第1相治験と位置付けられる研究だ。

まず最初に、肥満の人由来の細菌叢を移植し、高脂肪食を与え続けた無菌マウスに、豆の胚乳部分、オレンジ、および麦ぬかから調整した植物繊維を投与し、細菌叢の変化、細菌叢による植物繊維代謝酵素の変化を調べ、それぞれの植物繊維により誘導されるBacteroidesの種類が異なり、その結果、細菌叢全体の植物繊維処理能力が変化することを明らかにしている。

この結果を受けて、ヒト便を移植したマウスで最も多くの変化を誘導できた豆の胚乳由来の繊維を高脂肪食とともに3週間摂取したボランティア(治験1)、最初に豆胚乳+イヌリン、その後、豆胚乳、オレンジ、そして麦ぬかの3種類の繊維とともに、イヌリンを加えた植物繊維を間隔を開けて摂取させ(治験2)、それぞれの植物繊維の効果を、細菌叢に認められる植物繊維処理酵素の変化、そして1000種類にお及ぶ血中タンパク質の変化で評価している。

これまで、この様な研究は細菌叢の変化を示して終わっていた。これに対し、この研究では細菌叢の変化が、様々な炭水化物処理酵素の誘導にどう関わっているのか、そしてそれが血中のサイトカインや代謝に関わる分子の変化にどうつながるのか、膨大なデータの中から相関を調べ、スナック効果の因果性を特定しようと努力している。

詳細を省いて結論と意義をまとめると以下の様になる。

  • それぞれの植物繊維は、異なる炭水化物処理酵素を誘導する。ただ、豆胚乳の繊維が最も効果が大きい。
  • 豆胚乳、オレンジ、麦ぬかを混合した場合は、さらに広い処理酵素を強く誘導することができる。
  • この程度の摂取期間では体重などの変化はない。
  • こうして誘導された炭水化物処理酵素と、血中タンパク質とは相関が認められる。例えば、アラビナーゼ活性をしめすGH43_3は、グルコース代謝に関わる様々な血中タンパク質と相関する。また、4種類混合を投与したとき強く誘導されるGH_3は免疫システムに関わる分子と相関することを示している。
  • また、ここの炭水化物代謝系との相関はなくても、例えば4種類混合植物繊維は、FGF2,

TYK2, CXCL1などの肥満に関わるサイトカインを誘導することも示している。

以上が結果で、まだ長期効果は示されていないため、最終判断はできないが、このレベルでテストされた食品が出てくると、宣伝だけで乗り切るという今の食品開発はほぼ壊滅する様な気がする。ぜひ21世紀の栄養学をリードできる人が日本でも出てほしいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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