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6月15日 ガンとインフラマゾーム(6月9日 Nature オンライン掲載論文)

2021年6月15日

新型コロナウイルスの重症化までの経過を見ていると、動き出した免疫や炎症をタイムリーに抑えることの重要性を感じる。裏返せば、ガンのように免疫を高めたい時に、ノーベル賞の対象になったPD-1やCTLA−4以外に多くのチェックポイント機構が必要で、事実この数年で多くのチェックポイント分子が発見されてきた。

さらに、PD-1のような抗原特異的T細胞を対象にするだけでなく、免疫が誘導される局所の炎症を上げたり下げたりする仕組みも重要になる。局所炎症を上げて免疫を高めるために、ワクチンは自然免疫誘導刺激とセットになっているが、これも続きすぎると炎症が拡大するので、これを抑える仕組みが存在する。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、リンパ球ではなく、免疫を助ける樹状細胞などの骨髄球のチェックポイント機構TIM-3の機能をマウスで詳しく解析した研究で、炎症と免疫の最新研究を知る上でなかなか面白い論文だった。タイトルは「TIM-3 restrains anti-tumour immunity by regulating inflammasome activation(TIM3はガン免疫をインフラマゾーム活性化を調節することで制限している)」で、6月9日Nature にオンライン掲載された。

この研究はTIM-3と呼ばれる、リンパ球や樹状細胞など様々な細胞に発現している分子の機能研究と位置付けられる。この分子の研究は、もともとチェックポイント分子として臨床研究が進んでいる分子で、実験的にはTIM-3に対する抗体がガン免疫を高めることが知られている。ただ、PD-1のようにT細胞に効いているのか、それとも他の細胞を介してガン免疫に関わるのか、決着はついていなかった。

この研究では、マウスモデルで、リンパ球や樹状細胞などそれぞれの血液細胞系列特異的に遺伝子ノックアウトを行い、どの細胞でTIM-3の発現が抑えられたときにガン免疫を高められるか検討し、リンパ球ではなく、樹状細胞やマクロファージで発現が抑えられたときに、腫瘍局所のキラーT細胞が増加し、腫瘍を抑制することを明らかにしている。また、腫瘍組織に集まるCD8キラー細胞は、増殖性の高い一種の幹細胞タイプのT細胞で、ここから多くのキラー効果を発揮するエフェクター細胞が作られる。

すなわち、TIM-3が欠損すると、樹状細胞の機能が高まり、その結果CD8T細胞の幹細胞様の増殖が誘導され、ガンを抑えてくれていることがわかる。実際、TIM-3ノックアウト顆粒球を調べると、抗原を提示する能力が高まり、免疫増強に必要な分子の発現が高まっていることがわかる。

最後にTIM-3効果の分子機構をさらに調べていくと、TIM-3が欠損した樹状細胞では、自然炎症の核になるインフラマゾームの形成が高まっていること、そしてインフラマゾームの活性を、カスパーゼ1阻害剤、IL-1阻害剤、そしてNLRP3阻害剤を用いて抑制すると、TIM-3欠損による抗腫瘍効果は消失することを明らかにしている。 すなわち、TIM-3はインフラマゾームの形成を抑えて炎症を抑制する活性を介して、ガン免疫を抑えるチェックポイントであることがわかった。

以上のことから、TIM-3に対する抗体も十分役立つことはわかるが、もっと重要なメッセージは、ワクチンと同じで、免疫には必ず自然免疫活性化がセットでガン局所の炎症を調節して抗がん作用を発揮させることだといえる。インフラマゾームについては、ガンだけでなく、肥満から糖尿病に至るまで、研究が急速に進んでおり、ガン免疫治療にも大きな貢献が見込まれる。

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