これまで何度かアルタイ山脈にあるデニソーワ洞窟についての研究を紹介してきた。この洞窟からは、その名前の由来となったデニソーワ人のDNAが発見されただけでなく、ネアンデルタール人から現代人まで、様々な人類の骨が発見されている。しかも、ネアンデルタール人とデニソーワ人からできた子供の骨まで発見されているため、この洞窟をめぐって様々なドラマがあったと想像され、研究が進んできた。
そしてこれまでの研究をさらに前進させるメソードの革新として、ライプツィヒ・マックスプランク進化人類学研究所が2017年に発表した土壌に埋もれているDNA拾い出して、そこに生活した人類や動物を特定する技術が開発され、骨の発見されていない洞窟でも、そこに住んでいた人類を特定できることが示されたのは本年4月のことだった(https://aasj.jp/news/watch/15388)。
そして6月23日、同じマックスプランク進化人類学の研究者たちは、この技術をデニソーワ洞窟の様々な場所に適用して、そこで行われた人類のドラマを発掘した研究をNatureにオンライン出版した。タイトルは「Pleistocene sediment DNA reveals hominin and faunal turnovers at Denisova Cave(更新世の土壌に沈殿したDNAはデニソーワ洞窟の人類と動物層の変遷を明らかにする)」だ。
現在考古学的に100点がつくのは、石器などの考古学的遺物とともに、人骨、動物の骨が出土し、そこからDNAも完全に解読できることだろう。ただ、ほとんどの場合はそうは行かない。そこで、土壌DNA分析法の登場だが、この論文はこの技術が、手作りのパイロット研究の段階から、自動的・系統的方法へと変化していることがよくわかる。この研究のハイライトは、おそらくこのテクノロジーが成熟し、系統的に応用できる時代が来たということだろう。
まず、洞窟の様々な場所と地層を10−15cm画に分画して、なんと728箇所から系統的に土壌を取り出し、それを自動化した方法で処理することで、人類や哺乳動物の古代DNAを採取し、解読することに成功している。書いてしまうと簡単だが、これは途方もない努力で、論文の大半は、解析結果の妥当性を示すために費やされていると言っていい。
前回核DNAも解析可能と紹介したが、この研究で解析したのはミトコンドリアDNAで、場合によっては現在のDNAの混入を除外するため、脱アミノ酸化されたDNAだけに絞って、解析を行うことも行い、大体25万年前から、3万年までの洞窟の人類史をできるだけ正確に解読しようとしている。
結果、これまで通りこの洞窟は、25万年前、まずデニソーワ人が住み着き、その後20万年ごろからネアンデルタール人とデニソーワ人が入れ替わりながら生活する時代があり、14万年ごろ一時ネアンデルタール人だけが占拠した後、6万年前後には両者が入れかわりながら生活する短い時期の後、最後はネアンデルタール人、そして現代人と変化していることが明らかになっ
さらに、デニソーワ人、ネアンデルタール人も、これまで骨由来のDNAから明らかになった以上に多様な人類がそれぞれの時代で変遷しており、これまで知られていないネアンデルタール人のミトコンドリアまで発見されている。
この方法を用いると、人類に限らず様々な哺乳動物のDNAも発掘できる。人類のDNA が見つからない時代からクマのDNAは存在しており、その後クマ、ハイエナ、牛、馬、犬、そしてマンモスだけではなく、ラクダまでDNA が見つかっている。この動物DNAの存在と人類との関係はこれだけからはわからないが、今後洞の歴史を調べていくための切り札になる様に感じる。
素人の頭で理解できるのはこの程度だが、ともかく土壌のDNAでここまでのことがわかることに感動してしまう。前にも述べたが、DNAは周りの鉱物と反応して広く拡散するものではない様だが、それ以外の浸潤方法はないのかなど、これからさらなる検討が必要になる様に思う。でないと、他の手段で検証できない場合、想像力が事実を凌駕する心配があるが、期待は大きい。