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6月12日 病理診断から人間を排除する(6月11日 Science 掲載論文)

2021年6月12日

例えば腫瘍の臨床診断の最後は病理診断で、最近では様々なバイオマーカーを用いて診断も行われる。しかし考えてみると、末梢血のバイオマーカーを用いた診断と比べ、腫瘍と他の細胞との相互作用について最も密度の濃い情報が得られるのが、腫瘍組織の免疫病理検査だが、この利点を生かして、治療戦略に大きく関与するところまでは行っていない。

実際FDAが認可した病理診断基準は、PD-1抗体治療の適用を決めるためのPD-L1発現を調べる病理検査しか存在しないようで、DNAレベルの検査やsingle cell RNA seqなどに早晩置き換えられるのではと危惧される。

今日紹介するジョンズホプキンス大学からの論文は、免疫染色を用いた病理診断が普及できないのは、データの解読にバリエーションの大きい病理医などの人的ファクターがあるからではと考え、完全に人間を排除したプラットフォームを開発しようとする試みで6月11日号のScienceに掲載された。タイトルは「Analysis of multispectral imaging with the AstroPath platform informs efficacy of PD-1 blockade(マルチスペクトルの組織像をAstroPathプラットフォームで解析することでPD1治療の効果を予想できる)」だ。

研究自体は、機械でどこまで免疫染色した病理組織を読めるかと言う話だが、これを思い立ったモチベーションが、天体の分析に用いられるAstroPathというプラットフォームの存在だ。

現在高感度の反射望遠鏡で宇宙の広い範囲を撮影して、宇宙の精密な地図を作るSDSS計画が進行中だが、こうして得られた映像を解析する目的で作られたAstroPathを、6色異なるスペクトラムの蛍光色素で染色した組織の解析に使えるようにしたのがこの研究だ。

天体では星がまばらに存在しているので、組織観察には役に立たないと思われがちだが、SDSSにより示された天体は、数億個の星がぎっしりと詰まった像で、まさに細胞がひしめいている組織と同じで、確かに技術はそのまま利用できる。

ただ、このプラットフォームに合わせるためには、染色から工夫が必要で、示された図からみると、バックグラウンドが高くても、S/Nレンジを高めた染め方を新たに開発している。

あとは、単染色から始めて、細胞の輪郭、細胞あたりの蛍光強度の処理方法、など様々なパラメーターを最適化している。いずれにせよ素人には分かりにくい、しかし最も難しい過程だと思う。

その結果、大きな組織切片の億単位の細胞について、染色データを得て、任意のパラメーターについて2次元に再展開し、自動分析することが可能になっている。FACS解析と違って、蛍光強度については、4段階に分ける方法で分析しているが、これでも細胞一つ一つが41種類のどれかに分別され、驚くことに1枚のスライドから得られるデータ量は5TBになる。これを聞くと、病理診断から人的ファクターが除かれるのにはまだまだ時間がかかる気がする。

とはいえ、普及の問題は別にして、この方法で何が可能かを示す必要がある。この研究では、これまでの研究で示されていたCD8T細胞のPD1発現量が高いと、チェックポイント治療の効果は低く、一方、中程度から低レベルのPD1の発現が見られると治療効果は上がること、またCD163陽性の白血球が存在すると予後が悪いことなどを確認すると同時に、CD8陽性細胞の中の極めて稀な集団FoxP3+PD1+細胞の存在は、予後に強く相関することなどを示し、人的要因をのぞいてバイアスなしに解析することの意味を強調している。

最近の顕微鏡技術の発展のおかげで、実際に可視化することの重要性を嫌というほど感じるが、逆に判断には人間を除去することが重要とする、AI宣伝論文だろう。しばらくすると、優秀な病理医と、このAIの真剣勝負が始まる気がする。ただ、結果は見えている。

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