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6月13日 サルから人への進化:汗腺の多い皮膚(4月20日号 米国アカデミー紀要 掲載論文)

2021年6月13日
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現役を退いて8年になるが、生命科学分野の進歩や技術革新はいちじるしく、ウカウカすると新しいことが全く理解できなくなってしまうのではと恐怖を感じる。いよいよその時は論文ウォッチも引退になると思っているが、まだそこまではボケていないと走り続けている。

とはいえ、現役時代によく目にしたような内容の論文に出会うと、懐かしく紹介したくなる。今日紹介するフィラデルフィア、Perelman医学校からの論文は、発表から2ヶ月経ってはいるが未読の中に紛れ込んでいたので改めて読み直すことになった論文で、サルから人間に進化する過程で、汗腺を増加させて体を冷やす能力を身に着ける過程を、遺伝子の変化から推察する研究で、4月20日号の米国アカデミー紀要に掲載された。タイトルは「Repeated mutation of a developmental enhancer contributed to human thermoregulatory evolution (発生過程で働くエンハンサーに起こった繰り返す変異により人間の体温調節機構が進化した)」だ。

このグループは以前から汗の組織、エクリン腺の発生について研究しており、転写因子Engrailed1(En1)が、エクリン腺特異的に発現していること、さらにヒトの発生過程では、サルやマウスと比べると高い発現が見られることを発見していた。そこで、エクリン腺の数がヒトで多いのは、発生初期に皮膚プラコードでEn1の発現を調節するエンハンサーの活性に差があるからだと着想し、ヒトでの高い発現に関わる領域を探索している。

配列の比較から哺乳動物のEn1発現に関わる領域を209個所リストし、エピジェネティックスのデータベース、染色体免疫沈降法などを組み合わせ、最終的に23種類に絞り込み、ウイルスベクターに組み込んだレポーターシステムでマウス胎児に導入して、皮膚のプラコード特異的に発現する領域の中からECE18と名付けた領域を特定している。

次に同じ領域を、マウス、チンパンジーゲノムからクローニングし、同じレポーターシステムで調べると、期待通りヒトのECE18が最も高い活性を持っていることが確認できる。

あとは、ヒトケラチノサイトを用いて変異を導入したヒトECE18の活性を調べ、、ヒト特異的な高い活性にどの領域が必要か調べているが、これは難航したようで、結局SP1結合領域を中心にに幾つかの変異が蓄積することで、現在の人のECE18領域が進化したと結論している。

これを証明するため、最後にマウスECE18をクリスパーで人型にかえたマウスを作成し、2倍程度の発現の上昇が見られることを示しているが、残念ながらエクリン腺の数が増えた汗をかきやすいマウスまでには至らなかった。そこで最後に、En1の発現が半分に低下させたマウスを用いて、残っているEn1のエンハンサー領域をヒト型ECE18に変えたマウスを作り、ついにECE18がヒト型になるとエクリン腺の数が多くなることを証明している。

以上、転写調節研究を、進化と絡める起承転結のはっきりしたグランドストーリーの典型論文で、本当に懐かしく読んだ。ただ、ゲノム研究が進んだ今、おそらくこの領域を人間の進化や多様性からも見直すことが可能だろう。一枚の論文を書くために大変な労力が必要な研究だが、もっと多くのグランドストーリーを聴きたい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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