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7月5日 スプライシング阻害剤を用いてガン免疫を高める。(7月22日号 Cell 掲載論文)

2021年7月5日
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チェックポイント治療は、ガン免疫が成立するかどうかにかかっている。ガン細胞といえども、自己細胞由来であり、通常免疫トレランスがかかっている。幸い、ガン自体様々なストレスを跳ね返して増殖している結果、正常細胞にはない多くの突然変異が蓄積し、それが新しいガン抗原として働く。メラノーマや肺ガンでチェックポイント治療の効果が見られる人が多いのは、これらのガンでは紫外線やタバコなどにより、多くの突然変異が存在する確率が高いからだ。

とすると、ガン抗原として働く変異ペプチドをできるだけ多く作らせることができると、チェックポイント治療の確率を高めることができる。ゲノムレベルの変異以外で、これを可能にする方法として、当然スプライシングを阻害して、新しいペプチドを合成させることが考えられる。ただ、ガンでより依存性が高まっているとはいえ、スプライシングはガン特異性が期待できないことから、試みられてこなかったようだ。

今日紹介するスローンケッタリング ガン研究所からの論文は、ガンの免疫療法を高めるためのスプライシング阻害剤利用の可能性について詳しく検討した研究で7月22日号のCellに掲載された。タイトルは「Pharmacologic modulation of RNA splicing enhances anti-tumor immunity (RNAスプライシングを薬理的に変化させることで抗腫瘍免疫を高める)」だ。

スプライシングが失敗すると、イントロンが翻訳されたり、フレームの変わったペプチド断片が翻訳されたり、通常存在しないペプチドが細胞内で合成されることはわかっている。ただ、これが正常細胞の生存を脅かすと元も子もない。

この研究では、スプライシングに関わるRBM39を特異的に分解する薬剤や、スプライシング機能に必要なタンパク質のアルギニンメチル化を阻害する化合物を用いて、ガン細胞の試験管内の増殖には影響がないがガンを移植したときの免疫反応が高まる処理方法を探し、indisulam及びMD-023を特定している。

次に、免疫機能をはじめ、様々な生体機能が保持される濃度を決めたあと、ガンを移植したマウスをanti-PD1抗体で治療するとき、同時にそれぞれの薬剤を投与して、スプライシング阻害によりガン免疫を高められるか調べている。結果は期待通りで、いずれの薬剤も完全ではないが、明らかにPD1抗体治療の効果を高めることがわかった。

あとは、それぞれの薬剤が実際にスプライシングを変化させて、新しいガン抗原を誘導しているかどうかを、様々な方法を用いて調べ、

  • それぞれの薬剤は、イントロンをはずし損ねたり、あるいはエクソンを飛ばしてしまうというスプライシングの異常を誘導し、正常にはないペプチドを合成する。また、人間、マウスを問わず、共通の新しいペプチドが多く合成される。Indisulamはスプライシングの効率を下げることで前者の異常が多く、一方MS023は後者の異常が高まる。
  • こうして生成した異常ペプチドはMHCと結合できる能力があり、実際indisulam処理した細胞のMHC Iを免疫沈降して、結合しているペプチドを質量分析で調べると、スプライシングミスで生成したペプチドが多く同定される。例えばIndisulam 処理により、H-2D結合ペプチド518種類、H-2K結合ペプチド366種類発見している。
  • こうした発見したペプチドの中から、MHCとの結合性の高いペプチドを39種類選び、それぞれに対してT細胞免疫ができるか調べると、11種類がガン免疫を誘導することがわかった。
  • ペプチドとMHCのテトラマーを用いて抗原反応性T細胞を定量する方法を用いると、indisulam処理、あるいはindisulam+aPD1処理により、ガン抗原となるペプチド反応性のCD8T細胞が上昇する。

以上、様々な角度からスプライシング阻害剤を免疫チェックポイント治療と組み合わせると、効果が期待できることを示している。この2種類の薬剤は、少なくともマウスでは全身影響を許容できるようなので、チェックポイント治療の適用を高める意味でも、臨床治験の進展に期待したい。

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