過去記事一覧
AASJホームページ > 2021年 > 7月 > 24日

7月24日 小胞体ストレス応答を用いてガンを殺す治療:乳ガン治療のゲームチェンジャーになるか(7月21日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年7月24日

昨日は、既存の分子標的薬を論理的に組み合わせるガン治療を紹介したが、今日紹介するイリノイ大学からの論文は、ガンが増殖のために獲得してきたERストレスに対応するメカニズムを逆手にとって殺してしまう、新しいメカニズムを用いた抗ガン剤の開発研究で、7月21日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「A small-molecule activator of the unfolded protein response eradicates human breast tumors in mice (小胞体ストレス応答を活性化してマウス内でヒトの乳ガンを根絶する)」だ。

この研究を理解するには、Anticipatory Unfolded Protein Response活性化を理解してもらう必要がある。unfolded protein response(=小胞体ストレス反応:UPR)は、京大の森さんが発見した機構で、タンパク質が折り畳まれる前に小胞体に停留するストレスを感知するシステムで、シャペロンの合成を促し、翻訳を抑えてストレスを除去する。正常細胞より高い増殖を必要とするガン細胞では、増殖シグナルの下流で、予めUPRを適度に活性化して、通常より多くのタンパク質を急に合成して高い細胞活動を維持する仕組みを持っている。

このグループは、ガンがエストロジェン受容体(ER)を介して急速な転写を行うために、ER依存的にUPRを活性化する経路を、化合物を用いてさらに高めることで、小胞体ストレスをさらに上の細胞死を誘導する段階に誘導して、ガン細胞を殺す方法の開発を目指して研究してきた。これまでの研究でBHP1と呼ぶER結合性の化合物を開発し、ERを発現する細胞を完全に殺せることを示していたが、臨床に用いるには様々な問題があった。

メディシナル・ケミストリーを用いて、BHP1を至適化したErSOと呼ぶ化合物を開発し、この効果を確かめるための実験を行ったのがこの研究で、ErSOがER発現細胞特異的に、UPRを活性化し、細胞死を誘導して乳ガンの治療に使えるか確かめている。

ER陽性の乳ガンには、すでに治療のためにER阻害剤が用いられているが、これはER機能を抑制することで効果が発揮されるが、細胞を直接殺す作用はない。一方、ErSOがERと結合するとPLCγを強く活性化しUPRを活性化することで、直接細胞死を誘導できる。

結果をまとめると、

  1. ERを発現する乳ガン細胞株は全てErSOにより迅速に細胞死に陥る。
  2. マウスに乳ガンを移植する実験型で、ErSOは完全にガン細胞を根絶し、少なくとも半年は再発がない。
  3. 静脈にガン細胞を注入する転移ガンモデルで、ErSOは完全にすべての転移ガン細胞を根絶できる。
  4. エストロジェン非依存性の乳ガンもERを発現していれば、ErSOで根絶できる。
  5. 低用量でわざと再発を誘導して、耐性が獲得されているか調べると、全く耐性は獲得されておらず、通常用量で根絶できる。
  6. この効果は、おそらくSrcなどの活性化が見られるガン細胞のみ誘導され、正常のER発現細胞にはErSOの影響は少ない。
  7. これまでの生化学的研究から想定される様に、ErSOはSrcを介してPLCγを活性化し、強いUPRを誘導することで、ER陽性細胞を殺す。

以上が結果で、ERが一定レベル発現されて居れば、ER自体の機能とは無関係に、UPR反応をん防御的に高めているガン細胞のみを、殺せるという、あまりにも良くできた結果だと思う。もし臨床応用まで進めばER発現しているガンに限るが、画期的な治療法になると思う。また、ER自体の機能とは無関係に、UPRを活性化できるので、治療の難しい卵巣ガンにも効果が期待できる。なんとか、臨床まで持ってきて欲しいし、同じメカニズムの化合物を他のシグナル経路でも開発して欲しいと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
2021年7月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031