成熟後の免疫暴走を抑制性T細胞(Treg)が抑えてくれていることは、今や疑う人はいないと思うが、抑制のメカニズムについては、それに関わる分子の名前は上がってくるが、それらがどう働いているのか自分の頭の中でももう一つ明確ではない。例えば、Tregが抗原によるT細胞の活性化を抑えているのか、逆に活性化された後のT細胞を抑えているのか、あるいは両方に働いているのか、よくわかっていない。
今日紹介する米国NIHからの論文はこの問題に対して、ほとんど生体の免疫組織での細胞動態を解析することでアプローチした、少なくとも私にとっては眼から鱗とも言うべき素晴らしい研究で、7月22日号のCellに掲載される。タイトルは「A local regulatory T cell feedback circuit maintains immune homeostasis by pruning self-activated T cells (局所的なT細胞のフィードバック回路が自己抗原に反応したT細胞を剪定し免疫ホメオスターシスを維持する)」だ。
ヘルパーT細胞やTregについては、発現している分子からシグナルまで、かなり詳しくわかっている。ただ、これら複数の因子を組織上で測定し、それを自動的にPCで解析することは、意外と行われていない。実際これによって付け加わるのは、空間情報だけなので、どうしてもsingle cell RNAseqなどと比べて情報価値が少ないと思ってしまいがちだ。
もう一つ重要なのは、組織=顕微鏡=見るという話になって、どうしてもバイアスのかかった自分の目と脳で見てしまうと、見落とすものは多い。これに対し、この研究では、基本的に全てのデータをPCにインプットして、それを様々な視点で解析することで、組織学の問題を解決しようとしている。
最後に、機械に測定を任せるとしても、解析や課題の設定は研究者が決める必要があり、この点でこのグループは素晴らしい。まず、成熟無菌個体に存在する、自己反応性T細胞に注目し、これをTregが抑制するプロセスに絞り、自己抗原により活性化されたT細胞がIL-2を産生し、そのIL-2が周りのTregが、同じ抗原反応性のTregを近くに集めて、自己反応性T細胞を除去していることを示している。
書くと簡単だが、実際には様々な遺伝子改変マウスや抗体によるシグナル抑制を駆使した課題を設定し、その結果をPCで読み取り、ThとTregの空間的関係、および数や、増殖、アポトーシスなどの状態を、組織上で再展開できるようにして出された結論だ。例えば、活性化したThからTregの距離が10μに近くなどのデータは、観察しているだけではなかなか気づけない。
この結果、胸腺で自己反応性が選択された後も、自己反応性の細胞は常に存在することを明確に示したこと、そして自己抗原は、外来抗原と比べると弱い刺激しか受けないが、そこから分泌されるIL-2を介したフィードバックループ、すなわちTregの活性化されたTh周辺への集積、それがTcR、CTLA4等を介して、時間はかかるが自己反応性のThの細胞死を誘導することが示されたことは重要だ。
もう一つ、この論文を読んで、IL-2という単純なサイトカインに対して、様々な受容体が存在し、TregとThがわざわざ異なるシグナル経路を用意していることもよくわかった。すなわち、分泌されるIL-2の濃度に合わせた競合がThとTregの間で起こりやすいようになっている。
あとは、この中心ループに、これまでわかっているCTLA4やTcRのシグナルを組み入れたモデルを形成し、このモデルを元に、様々なセッティングでの実データを機械学習させ、極めて予測性の高い、Tregによる反応抑制システムモデルの構築に成功している。
しかも、このモデルから想定される可能性、例えばCTLA4が片方の染色体で欠損した人では自己免疫が起こりやすく、またIL-2のシグナルにIL-2βが関わっていても、その欠損では自己反応性細胞の活性化が抑制されたままであるといった予想を、実験的に確かめている。
あまりにも内容が豊富で紹介はこの程度にしておくが、組織学的な空間情報を取り込み、そのデータを一度コンピュータに預けることで、Tregについてこれほど理解が深まるのか、感激は大きい。しかも、モデリング嫌いの私にも、ビッグデータから見えないものが本当に見えることがよくわかった。
免疫学を志している人たちにはぜひ読んでほしい論文だ。