これまで、実に多くの免疫システムに関わる多くの遺伝子欠損患者さんが発見されており、免疫システムが極めて複雑な細胞と分子のバランスの上に存在していることがわかっている。そしてついに、本庶先生がノーベル賞を受賞した分子PD-1が欠損した患者さんを、ロックフェラー大学を中心とする国際チームが6月28日Nature Medicineにオンライン発表した。タイトルは「Inherited PD-1 deficiency underlies tuberculosis and autoimmunity in a child(遺伝的なPD-1欠損症により結核と自己免疫が児童期に併発する)」だ。
Introductionを読むと、このグループは結核感染と免疫系遺伝子変異についての豊富な研究経験があるようだ。実際結核は感染防御だけで無く、病気の進行にも免疫システムが関わる複雑な感染症なので、人間で免疫システムを解析するには格好の材料と言える。
このような研究の中で、1型糖尿病、甲状腺機能低下、関節炎と、多臓器自己免疫病を3歳の時から罹患し、結核性の腹膜膿瘍で入院し、最終的に呼吸不全で亡くなった子供を経験する。そして、その兄弟がやはり感染症で亡くなったことを聞き、遺伝性の疾患を疑い、最終的に読み枠がシフトして、短いタンパク質ができてしまう、同じPD-1遺伝子の突然変異が両方の染色体で揃ったことを発見する。この突然変異の結果、PD-1は細胞表面に全く発現されないことも確認している。これまでPD-1自体の変異は発見されているが、機能が完全欠損した患者さんは世界初の症例らしい。
もともと機能阻害抗体を用いたチェックポイント治療が世界中で行われており、今更遺伝子欠損患者さんから得られる情報は少ないのではと思う人もいると思う。実際、この患者さんでは、激烈な結核とともに、多臓器の自己免疫病を発症し、様々な自己抗体が検出され、それとともにいわゆるサイトカインストーム状態が発生していることが示されているが、全てPD-1チェックポイント治療の副作用として広く知られている。
しかし患者さんをじっくり調べ、
- 結核感染は、PD-1欠損により結核菌に反応したリンパ球からのインターフェロンγやTNFといったサイトカイン誘導が低下していることが原因であることがわかった。
- PD-1抗体投与の場合、最初に結核に対する免疫反応が高まり、その後低下することが知られているので、PD-1が欠損すると、最初免疫は増強されても、長いスパンでは特異的免疫も疲弊するのかもしれない。
- ほとんどのリンパ球サブセットからのインターフェロンγ合成が低下しているが、同時にγδT細胞、MAITと呼ばれるinvariantTcRを発現した細胞、そしてNK細胞の数が低下していることが、結核への抵抗力がなくなる大きな要因になっている。
- STAT3が遺伝的に活性化した患者さんに極めて類似した、double negativeT細胞の増殖とRORγT細胞の増加を伴う自己免疫反応が起こっている。これは、PD-1が欠損することで、IL-6やIL-23が過剰に分泌されるサイトカインストームの結果を反映している。面白いことに、同じチェックポイント治療に使われるCTLA4欠損患者さんでは、逆にdouble negative T細胞とRORγT細胞は低下している。
他にもあるかもしれないが、以上が結果の要点になる。
ある程度予想されているとはいえ、PD-1が欠損している場合でも、特異的な免疫反応が最終的に疲弊することがあること、さらに自己免疫病の基盤としてRORγT細胞が存在することから、RORγを抑制することでPD-1抗体の副作用を治療できることなど、重要なメッセージを示した研究だと思う。
PD-1と並んでCTLA4のチェックポイント機能がノーベル賞を受賞したが、このCTLA4と競合するCD80刺激分子がCD28で、なんとこの遺伝子変異による機能低下を示す症例が、同じロックフェラー大学から7月8日号のCellに発表されている。
詳しくは述べないが、この患者さんは、なんとヒトパピローマウイルス(HPV)2、およびHPV4に感染し、Tree Man Syndromeと呼ばれる、手足の上皮の過剰増殖で、木の枝が手足からのびたと思えるほど激烈な症状を示す。しかし、これ以外はほとんどT細胞の免疫異常は認められておらず、共シグナルシステムが互いに補い合う体制ができていることがわかる。このように、ヒトでの症例を重ねることの重要性がわかる論文だった。