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7月27日 2万年以上前に東アジアでおこったコロナウイルス流行の爪痕(8月23日号 Current Biology 掲載予定論文)

2021年7月27日
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以前、ペーボさんたちが発表した、ネアンデルタール人由来のcovid-19重症化に関わる遺伝子多型(https://aasj.jp/news/lifescience-easily/13992)、および抵抗力に関わる遺伝子多型(https://aasj.jp/news/watch/15012)について紹介した。これらの論文は、我々の遺伝子が強い感染圧力の元で進化してきたことを示唆している。しかし、これら遺伝子多型がネアンデルタール人で起こったコロナウイルス流行の爪痕である可能性は低いと思う。

では、かって人類が遭遇したコロナウイルス流行の爪痕を知るための方法はないのだろうか。今日紹介するオーストラリア・アデレード大学からの論文は、ウイルスタンパク質と直接相互作用を行うホスト側の遺伝子に絞って、世界各地域をカバーする1000人ゲノムデータを比較し、多くの遺伝子領域で25000年以上前のコロナウイルスによる選択の爪痕が見られることを示した研究で、8月23日号Current Biologyに掲載予定だ。タイトルは「An ancient viral epidemic involving host coronavirus interacting genes more than 20,000 years ago in East Asia(東アジアで20000年以上前におこった、コロナウイルスと相互作用する遺伝子が関与するウイルス流行)」。

これまでコロナウイルスタンパク質と相互作用を示すホストタンパク質は400種類ぐらい特定できているが、この研究では、これら遺伝子領域に頻度高く保存されている領域がないか調べ、なんと日本人を含む東アジア人だけで、約50種類の遺伝子にselective sweepと呼ばれる保存されたストレッチが、高い頻度で維持されていることがわかった。

すなわち、東アジアだけで、コロナウイルスと関わる約50種類のタンパク質をコードする遺伝子の多様性を、強く低下させる出来事が、起こったことを示している。もちろん、他のウイルス感染により同じことが起こる可能性はあるが、これまで知られている他のウイルスタンパク質と関わる分子をコードする遺伝子で同じ検索を行っても、ほとんど引っかかってこないことから、コロナウイルスの流行が起こった確率が最も高い。

この領域の保存された長さから、いつ選択されたかなどが推定できるが、これらの遺伝子の頻度は770−970世代前に集中していることがわかる。今回リストできた全ての遺伝子で、この選択はほぼ同じ時期(世代数から25000年以上前と計算できる)に起こり(すなわち頻度が上昇し)、その後は大きな変化はない。

それぞれの遺伝子の発現と多型との関係を調べると、基本的には発現調節領域に関する多型で、遺伝子そのものの機能を変化させる変異はほとんど観察できない。

面白いことに、この遺伝子多型のほとんどは、肺を中心に、Covid-19の病態に関わる組織や臓器に発現しているが、重症化や感受性に相関するゲノムを調べたときに必ず登場する免疫機能との相関は低い。現在のcovid-19への抵抗力や感受性を調べると、当然免疫系の細胞と強く相関する遺伝子多型がリストされるが、最初からウイルスタンパク質との相互作用でホストの遺伝子を選ぶと、免疫系の遺伝子は完全に除外されるのだろう。

以上、読者には本当かどうか確かめがたい結果だが、東アジア人の先祖が25000年前に受けたレッスンが、もし、東アジア人の抵抗力につながっているなら、デルタ型も何とかしのげるかもしれない。

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