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7月19日 抗うつ剤としての幻覚剤 (8月18日号 Neuron 掲載予定論文)

2021年7月19日
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重いうつ病に、様々な幻覚剤を用いる治療が急速に拡大している。臨床現場に最初に導入されたのは、麻酔剤ケタミンで、これまで何回も紹介してきた。麻酔剤ケタミンを幻覚剤と呼んでいいかどうか難しいところだが、ケタミンも解離体験を誘導することが知られている。

最近になって、幻覚を誘導するドラッグとして用いられていたキノコ、シビレタケに含まれているシロシビンが、セロトニン2A受容体の刺激を介して働き、抗うつ剤として働くことがわかって、FDAもFast Trackで2019年に認可している。最近発表されたThe New England Journal of Medicine(384,1402, 2021)では、抗うつ効果はセロトニン再吸収阻害剤と同等で、しかも副作用が少ない抗うつ剤として使えることが示された。

今日紹介するイエール大学からの論文はこのシロシビンの抗うつ効果の背景にある神経メカニズムを解明しようとした研究で8月18日号Neuronに掲載予定だ。タイトルは「Psilocybin induces rapid and persistent growth of dendritic spines in frontal cortex in vivo(シロシビンは前頭皮質の樹状突起スパインの迅速で長期間続く成長を誘導する)」だ。

研究は単純で、まずシロシビンがマウスにも幻覚を誘導する(頭を左右に振る動作を指標にしている)用量を決定した後、シロシビン投与後の内側前頭前皮質の樹状突起を長期間観察し、樹状突起スパインの成長を7日目と、34日目で記録している。

以前紹介したようにスパインの動態を長期間観察する方法(https://aasj.jp/news/watch/3680)が開発されたおかげといえる研究だが、投与直後にスパインの数がコントロールに比べて増加し、退縮自体は両群で変化がないため、結果シロシビンにより前頭葉のスパインの数が増えることがわかった。

脳全体で見てみると、前頭前皮質だけでなく、レベルは低いが辺縁系や運動野でも見られる。ヒスタミン2A受容体の阻害剤でこの効果が消えることから、ヒスタミン作動性の神経では同じ効果が得られるのではと結論している。また、効果はメスでより強く見られる。

シロシビン投与直後の神経活動をみると、興奮数と興奮の振幅が高まっており、神経興奮を介するシナプス増強が起こっていることを示している。

重要なことは、こうして誘導されたスパインの変化は、1ヶ月間も維持できることで、ケタミンと同じく一度の投与で迅速かつ長期間続く効果が得られることになる。

結果は以上で、樹状突起スパインの増加などはケタミンの場合と似ているが、作用標的がヒスタミン2A受容体と、うつ病に最も関わりのある神経伝達系なので、基礎的にその効果のメカニズムが明らかになることは、この治療を後押しするように思う。

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