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7月12日 声楽曲を聞くと失語が改善する(eNeuro 7/8月号掲載論文)

2021年7月12日

引退してから、情報という非物理的因果性が如何に地球上に誕生したかに興味を惹かれ、最初の遺伝情報と生物の誕生、および言語の誕生に関する論文を調べてきた。その結果、無生物から生命と遺伝情報が誕生する過程については様々な機会に講義を行うようになったが、言語に関しては、現役時代の幹細胞研究があまりにかけ離れているのか、あまりお呼びがかからない。

しかし言語、特にシンボル化した話し言葉の誕生が、我がホモサピエンスを地球最強の勝者としたことは間違い無く、最も面白いテーマだ。言語発生に関するこれまでの研究をまとめて考えると、話し言葉は、音やリズムに満ち、しかも階層的に物を教えることが必要な精度の高い石器を作る工房で発生したのではないか、と考えるようになった。どちらにしても証明は難しいので、ワーグナーのオペラ、マイスタージンガーの2幕、Sachs親方が歌を歌いながら弟子のDavidに靴作りを教える場面を拝借して、「言語誕生のマイスタージンガーモデル」と名付け楽しんでいる。

いずれにせよ、言語と音楽の関係は、認知科学の中でも重要な領域であることは間違い無いが、今日紹介するフィンランド・トゥルク大学からの論文は、脳梗塞による失語のリハビリに、音楽、特に声楽曲を聞くことが効果があるという現象の脳科学的基盤を調べた研究でeNeuroの7/8月号に掲載された。タイトルは「Vocal Music Listening Enhances Poststroke Language Network Reorganization(声楽曲を聞くことにより梗塞後の言語ネットワークの再構成を促進する)」だ。

このグループは、音楽療法や、音楽がわからなくなるAmusiaと失語について研究を続けているグループで、昨年、梗塞後の失語の回復が、声楽曲を聞くことで促進される、という結果を発表している。

このメタアナリシスによると、例えば物語が語られるオーディオブックと比べたとき、歌のない音楽自体も失語回復により高い効果を持つが、声楽曲を1日1時間程度聴くことで、それ以上の効果が得られることを示すとともに、言語に関わる脳領域のは灰色髄の拡大が見られることを示していた。

今日紹介する研究はその延長で、同じ患者さんのMRI検査を行い、声楽曲を聴くリハビリによって、

  • 脳構造的には、特に流暢な話し言葉に関わる重要な回路として知られる、中心前回と下前頭回をつないでいるFrontal aslant tractの結合が増加する、
  • 機能的には声を聞いた時の上前頭回から中心前回にかけての領域の機能が高まる、

ことを明らかにしている。

なぜそうなのかは明らかでないが、声楽曲を聴くことで、言語力の強化が可能だが、この結果はまさに言語に関わる脳領域の活動性の上昇と、ネットワークの結合性上昇を伴っていることを明らかにした論文だ。

日本語の場合、言語に関わる領域も少し異なるので、同じことが我が国の失語患者さんでも言えるのかはわからないが、失語のリハビリの難しさを考えると、真面目に検討する価値は十分あると思う。

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