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7月22日 意外なメラニン合成促進法(8月5日号 Cell 掲載論文)

2021年7月22日
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私にとって色素細胞は、血液細胞と並んで最も馴染み深い細胞だが、メラニンが形成される複雑な過程は、今なお把握し切れていない。実際、メラニンは「黒」か「白」かという単純なものではなく、メラニン自体EumelaninとPheomelaninに分かれ、皮膚の色の違いをもたらす。さらには、メラニンはメラノゾームと呼ばれる細胞内小器官で合成されたあと、細胞間移行によりケラチノサイトに受け渡され、この細胞過程でも色素の濃さが変化する。そして、これら全ての過程を調節するのがMSHそその受容体MCRシグナルで誘導されるマスター遺伝子MITFで、これら全ての過程の総合として、私たちの皮膚や毛の色が決まっている。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、ミトコンドリア膜のNNT(nicotinamide nucleotide transhydrogenase)を介する還元反応が、メラニン合成経路の酵素活性を変化させて、皮膚のメラニン量を変化させる可能性を示した研究で、少しマニアックだとは思うが、皮膚の色素量を変化させる新しい介入ポイントとして可能性のある標的になるように思う。タイトルは「NNT mediates redox-dependent pigmentation via a UVB- and MITF-independent mechanism(NNTは酸化還元反応依存性の色素形成をUVやMITF非依存的に行う)」だ。

タイトルを見て、メラニンや色素細胞形成のマスター分子MITFに依存しないで色素形成を変化させられるのか、と驚いて読んだのだが、実際には勘違いで、この経路は転写とは関係なかった。おそらく活性酸素とメラニン形成の関係を研究するためだったのではと想像するが、メラニン形成メラノーマ細胞のNNT(プロトン勾配を用いてNADH―NAD反応を調節、活性酸素を調節している)をノックダウンする実験をまず行い、NNT が欠損するとメラニン合成が高まることを発見する。

この効果が、メラノゾームとメラニン形成の核過程が増強される結果だが、MITFによる転写経路を介さないことを確認したあと、この効果がメラニン合成の鍵分子、チロシナーゼが安定する結果であることを発見する。すなわち、チロシナーゼはNNTによる酸化還元反応が関わる何らかの経路を通して、チロシナーゼの分解に関わっていること、そしてNNTノックアウトによりチロシナーゼが安定化する結果、メラニン合成、メラノゾーム形成が増強されること、を明らかにした。

あとは、ゲノムデータベースを用いて、NNT遺伝子の多型を調べ、その中の11種類の多型が、皮膚のメラニン形成と相関していること、またこの多型のいくつかはNNT遺伝子発現量と逆相関することを明らかにしている。

最後に、NNT阻害剤を皮膚に塗布することで、メラニンの合成を増やして、紫外線から皮膚を守れることも明らかにしている。

残念ながらNNTによるミトコンドリア内のNAD;NADPH合成から、チロシナーゼ分解までの経路が明確になっていないので研究が必要だが、NNTをうまく増強することで、活性酸素を抑えながらかつ美白につながる方法も開発できるかもしれない。

以上が結果で、色素細胞に興味のある医療や美容の研究者には面白いヒントがあるかもしれない。

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