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7月21日 抗体反応を胚中心の反応として捉える(7月16日号 Science 掲載論文)

2021年7月21日
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すでに6割の高齢者がワクチン接種を終えた。私たち夫婦も、昨年の秋mRNAワクチン治験論文を読んで期待したように、接種が終わった6月以降は海外旅行以外、かなりノーマルな生活に戻って楽しんでいる。ただ抗体ができているかどうかは直接確認できておらず、ワクチン効果は論文と自分自身の様々な感染症に対する経験から推察するしかないので、変異株が猛威をふるう今、気持ちが100%ノーマルになることはないだろう。

血中の抗体の上がり下がりのほとんどは、リンパ組織での免疫に関わる数種類の細胞の相互作用の様式の変化を反映したもので、この細胞相互作用が行われる場が、免疫後にリンパ節などで新たに形成される胚中心という構造だ。すなわち抗体が上昇するフェーズで胚中心が形成成長し、抗体が下降するフェーズでは胚中心が縮小、最終的に消滅する。このおかげで、迅速に抗体反応が起こり、また一定期間後反応が低下し、免疫の暴走が止まるようにできている。

今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、免疫反応が暴走せず胚中心が退縮する過程を、生きたマウスのリンパ節の長期観察を含む様々なテクノロジーを動員して解析し、ヘルパー細胞から抑制性T細胞への転換が胚中心退縮の引き金になることを示した力作で、動物モデルではあっても免疫反応がこのレベルまで解析できるようになっているのかと、強い感銘を受けた。タイトルは「Expression of Foxp3 by T follicular helper cells in end-stage germinal centers(濾胞ヘルパーT細胞のFoxp3発現が胚中心の終期に起こる)」だ。

胚中心は、抗原を取り込んだ樹状細胞の周りに、B細胞とTヘルパー細胞が集まって、反応が進むリンパ組織内で起こる一種の炎症反応と見ることができる。この反応は極めて複雑だが、とりあえず上昇期はB細胞と濾胞Tヘルパー細胞(Tfh)の動態を抑えておけば、反応をモニターできる。一方、退縮期に入ると、免疫を抑える濾胞Treg(Tfr)が加わって、B細胞がTfhの支援を阻害すると考えられる。

この研究では、NP-OVAを抗原として、NPに反応するB細胞、OVAに反応しているTfh, Tfr、それぞれの動態を経時的に観察するモデル動物を用いて、抗原注射後支配リンパ節で見られる反応をモニターしている。詳しくは紹介しないが、脳研究の光遺伝学レベルのシステムが免疫でも揃っていて、胚中心の消長を細胞レベルで観察できるようになっている。結果をまとめると、以下のようになる。

  • Tfr機能マーカーFoxp3陽性細胞数は、胚中心の退縮が始まる前に急速に増加する。
  • Foxp3陽性細胞の振る舞いを、例えばB細胞との接触時間などを指標に観察すると、上昇期と退縮期では質的変化が見られる。さらに、上昇期、退縮期前でTfhとTfrが発現するTcRを調べると、上昇期では全く一致しなかった両者が、退縮期にはいると同じTcRを発現している頻度が高まる。
  • 以上のことから、Tfrは胚中心外から移動してくるのではなく、TfhがFoxp3を発現して、Tfr型へ転換すると考えられる。実際、single cell RNAseqでそれぞれの遺伝子発現を調べると、退縮期のTfrは、TfhとTfrの両方の性質を持った細胞になっている。
  • 最後に、タモキシフェンでFoxp3発現を強制誘導できるようにしたTh細胞を移植して胚中心を形成させた後、まだ上昇期の間にFoxp3をThで強制発現させると、胚中心が退縮を始める。

すなわち、胚中心の形成に関わったTfhが、一定の条件(TcRシグナル変化やTGFβシグナルなどが想像されるが、決定はされていない)下でFoxp3を発現し、T細胞とB細胞の反応を止めて、胚中心の退縮にも関わることが明らかになった。

今後、この仕組みが、長期記憶にも関わっているのかなど、面白い研究が続くように思う。抗体反応研究の総合力をまざまざと見せつける力作だと感銘を受けた。

余談になるが、ここで使われているシステムは、1980年代、私が留学していたRajewskyの研究室で開発していたシステムで、B細胞のイディオタイプをB1-8と記載されているのを見ると、40年前を懐かしく思い出した。

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