腸管は免疫反応が誘導される最前線で、ここでの自然免疫状態に腸管内の細菌叢が重要な役割を演じている。この前線と司令基地としての所属リンパ節を結んでいるのはリンパ管で、このルートを通ってリンパ球や樹状細胞が腸管組織と所属リンパ節を行き来する。このため、所属リンパ節は、それぞれがカバーしている腸管組織の様々な状態が反映されている。ところが、腸内での免疫を考えるとき、私たちは全てを一括りにして考える傾向がある。
今日紹介するロックフェラー大学からの論文は腸管各領域に所属するリンパ節の細胞構成と免疫機能を丹念に調べた研究で、このような検討がまだできていなかったと驚くとともに、好感が持てる研究だった。タイトルは「Compartmentalized gut lymph node drainage dictates adaptive immune responses (各領域に分離されたリンパ節への流入は獲得免疫を規定する)」だ。
この研究では、十二指腸、小腸、大腸と所属リンパ節を領域ごとに分けて、それぞれの違いを丹念に調べ、免疫反応との関わりを調べている。特に新しいテクノロジーを使うわけでもなく、極めてオーソドックスな研究で、要するに問題設定が面白い点が評価された研究だと思う。結果は箇条書きにする。
- 所属リンパ節間の連結はなく、従ってそれぞれが独立した免疫の司令基地として働いていることが確認される。
- レチノイン酸のような脂肪に溶ける物質は、ほとんどが十二指腸で吸収され、所属リンパ節に直接流入するが、他のリンパ節へは循環に入ってからしか流入しない。これは、薬剤の効果を考えるとき重要。
- 樹状細胞の遺伝子発現を調べると各所属リンパ節間で大きな変化が見られる。また下部消化管に行くほど所属リンパ節には炎症を促進するタイプの樹状細胞が多くなり、一方制御性T細胞の流入を促進するケモカインを分泌するタイプは十二指腸所属リンパ節に多い。
- これを反映して、制御性T細胞は十二指腸所属リンパ節に多く、炎症性T細胞は下部消化管所属リンパ節に多い。
- 十二指腸、回腸に直接抗原を注射して腸炎の発症を調べると、回腸に抗原感作した時のみ炎症が起こる。
- 十二指腸に選択的に感染する寄生虫を感染させると、十二指腸所属リンパ節の制御性T細胞が減少し、トレランスの成立が低下する。
などを示している。様々な感染実験を組み合わせた、さすがロックフェラー大学と思える、オーソドックスな研究で、古い世代としては大変好感を持った。実際同じことが人でも言えるのか、さらに研究が必要だが、ワクチンや、食物アレルギーを防ぐといった観点から考えると、抗原の投与方法の開発で、より抗原特異的免疫操作が可能になるのではと期待する。
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