昨日に次いで高次な判断の脳科学で、実際には自分の頭のアップデートのために無理をして読んでいる。今日紹介するMITからの論文は2匹のマカクザルを用いた研究で、サルをつかうだけあって課題はかなり複雑で、使うテクノロジーも異なっているが、研究のやり方は昨日紹介した研究とほぼ同じと言える。タイトルは「Hierarchical reasoning by neural circuits in the frontal cortex (前頭皮質の階層的推論回路)」で、5月17日号のScienceに掲載された。
この研究でも最終的に失敗や成功を繰り返しながら形成される主観的価値判断の基準に関わる回路の特性を研究している。ただ、この研究で使われた課題は読んでいても極めて分かりにくい複雑な課題だ。実際このような課題を行えるようサルを訓練すること自体が大変だろうと推察する。
さて、我々は一度経験した結果を、指示に従って再現しようとしてもうまくいかない場合、指示が間違っているのか、それとも自分が指示を間違えて受け取ったのか判断する必要がある。このためにはまず自分を信じて何度かトライして、失敗が続くと指示が間違っていたと判断することになる。このように、自分の感覚の信頼性と支持への信頼性の両方を正しく判断した時にだけ結果が得られる課題を著者らは階層的と呼んでいる。
しかしこれをサルに訓練するのは大変だ。詳細は省くがこの研究では、ルールを指示したあと、そのルールに従って判断する課題と、昨日のように外部からの指示なしに、試行を繰り返しているうちにルールやルールの変化を判断する課題を行わせている。
その上で、この行動をモデル化して、この過程に関わる要素を抽出した上で、行動時の神経活動を記録し、それぞれの要素と相関する神経細胞を特定している。ただ、マウスと異なり猿の場合は脳も大きく、多くの領域を同時にモニターすることは難しいため、これまでの研究結果に基づき、背外側前頭前野と帯状回皮質の2/3層に限って電極を刺して調べている。このため、他の領域の関与は全く無視されている。
まず判断の結果に対する反応をしらべると、両方の領域で多くの神経が、判断の失敗や、難しさ、連続した失敗に強く反応する一方、成功時には反応がないことがわかり、この領域が、失敗を経験として計算することで、階層的な課題のルールを推測していることを突き止めている。また、両方の領域の反応の時間経過から、背外側前頭前野でそれまでの失敗について計算を行い、そのシグナルをもとに帯状回皮質神経でルールについて判断するのを助けることを確認している。
この背外側前頭前野から帯状回皮質へ伝達される失敗についての分析データが帯状回皮質での計算に関わっていることを示すため、背外側前頭前野に微小刺激を加えて、 帯状回皮質の神経興奮が変化するか調べている。ルールを外から指示する課題(すなわち経験したエラーをもとに計算が必要ない課題)では、背外側前頭前野を刺激しても帯状回皮質の活動はほとんど変化しない。一方、これまでの失敗を計算して推察する課題では背外側前頭前野の刺激が帯状回皮質の興奮に強い影響があることを示している。
最後に、全体を統合している帯状回皮質の刺激によりルールが変化したかどうかの判断が変わるか調べ、確かに変化することも確認している。
結果は以上で、課題は違うが経験を常にアップデートし、正確な判断を可能にする主観的判断基準の形成に背外側前頭前野と帯状回皮質が階層的に協力していると言う結論だ。
より我々人間の行動に近づいた課題で、面白いとは思うが、2日間読んでみて、ビッグデータサイエンスに変化しつつある脳研究が自分の脳の理解の範囲から少しづつ離れていっている気がした