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5月31日:ASD児の全ゲノム配列データを理解する努力(Nature Geneticsオンライン掲載論文)

2019年5月31日
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ASDに関する最近の論文紹介の最後は、プリンストン大学による、ASD児の家族について全ゲノム解析したビッグデータの意味を何とか理解しようとした研究でNature Geneticsにオンライン掲載された。タイトルは「Whole-genome deep-learning analysis identifies contribution of noncoding mutations to autism risk(全ゲノムについての機械学習を用いることで、ASDのイントロンの変異のASDリスクを特定する)」だ。

これまで多くのASDゲノム解析論文が発表され、その結果ASDはneurodiversity(神経系多様性)の典型で、多くの遺伝子の小さな変異が積み重なって起こってくるのではないかと考えられている。ただこのような場合複雑すぎて、遺伝子リストができても、メカニズムはおろか、ゲノムを診断に使うことも簡単ではない。その結果、より精度を高めるため、DNA多型の解析や、機能タンパク質へ翻訳されるエクソーム解析は、必然的に全ゲノム解析まで進んでいく。しかし、エクソーム解析でアミノ酸が変化することがわかっても、その変化の機能的意味を理解するのは困難を伴う現状では、全ゲノムとなると、変異部位の意味はますますわかりにくくなり、精度を上げることは夢のまた夢になる。

このグループは、ASD研究が専門ではなく、全ゲノムデータのイントロン部分に存在する変異の機能的意味を予測するため、イントロンの配列を、クロマチン、RNA結合など利用できる様々なデータを結合させて、それぞれの部位の意味を予測するAIを開発しており、今回の研究は、構築したアルゴリズムでASDのような複雑なゲノムをどこまで理解できるのかテストするのが目的になっている。

ASDが最初にテストに選ばれた理由は、1700人のASD児と、その親・兄弟の全ゲノムが揃っているシモンズ財団のデータベースの存在が大きい。この組み合わせから、親、兄弟にはなく、ASD児にだけ新しく発生したゲノム変異を抜き出すことができる。これらには、ASD発症に関わっている変異が濃縮されていると考えられ、この変異の部位の機能的意味をAIで予想し、ASD理解に貢献できるかテストすることで、今回設計されたAIの利用価値が確かめられると期待している。

結果は当然予想通りで、

  • ASDだけに見られるイントロン変異の近傍の遺伝子は(NEDAと名付けている)、脳の皮質や大脳基底核に発現されているものが多い。
  • NEDAは神経発生やシナプスシグナルに関わる遺伝子が多く、その中にはすでにASDのリスク因子として知られる遺伝子が多く含まれている。
  • 一部の変異については細胞を用いた転写活性テストで活性を直接確かめ、転写活性を低下させる変異が多いことを確認している。
  • 症状の重さとイントロン変異の多さは相関する。

と、新しいAIをASDのイントロン変異に適用すると、予想通りの結果が出たことから、このAIはイントロン変異の意味を予測する高い能力を持っていると結論している。

ビッグデータの解析なので、研究についての実感はないが、今後他の病気の解析にも使うことで、評価されると思う。

個人的には、シモンズ財団が長期的視野でこれほどのデータを集め公開していることに感心した。そして、この方向で研究が続けば、ゲノムを用いたASDの早期発見も可能になるのではと期待を持った。

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