Fibromyalgia (FM: 線維筋痛症)は、脳内での痛みの閾値が低下することで、他の人より小さな刺激でも強い痛みとして感じてしまう病気で、苦しんでいる人は多い。一番問題は、診断が確立しておらず、専門医の診断と自己診断が大きく食い違うことについては以前紹介した(http://aasj.jp/news/watch/9681)。このため、FMの診断を確定できなくとも、助けてくれる血液検査が求められていた。
今日紹介するテキサス大学ガルベストン校からの論文はFMの患者さんがいわゆるインシュリン抵抗性の状態にあり、メトフォルミンで痛みを軽減できるという、本当なら患者さんにとって画期的な研究で、5月6日号のPlos Oneに掲載された。タイトルは「Is insulin resistance the cause of fibromyalgia? A preliminary report (インシュリン抵抗性は線維筋痛症の原因か?:予備的報告)」だ。
このグループは、糖尿病による脳の微小循環障害を研究していたのだろう。その延長で、脳の痛みの閾値が下がるFMにも何らかの差があるのではないかと、様々な指標を検討していた。実際、これまでの研究でFMの人では糖尿病のリスクが高いことも知られている。
この結果出てきたのが糖尿病の診断に使われるHbA1cで、全体で見ると正常範囲に収まるように見えるが、年齢別にプロットすると、それぞれの年齢で正常よりだいたい0.6高いことに気がついた。
ほとんど詳しい検査が行われていないこと、および23人という小規模研究なので何とも言えないが、この傾向をインシュリン抵抗性による可能性が高いと結論している。
この上で、16人の患者さんに糖尿病に最も用いられるメトフォルミンを1日1000mg投与すると、なんと8人の患者さんで痛みが完全に軽減し、残りの患者さんも、通常の治療よりははるかに痛みが軽減したという結果だ。
話はこれだけで、治験としては全く不十分なため、トップジャーナルには掲載できないのだろうと思う。しかし、この可能性はかなり短期間に大規模治験で確認できる。またメトフォルミンは、現在では糖尿病の予防にすら使われる、薬の中では長期間服用することに関するデータがしっかりある薬剤で、副作用は少ない。したがって、二重盲検無作為化試験もすぐに計画できる。もし治験結果がポジティブなら、治療だけでなくFMのメカニズムも含めこの分野の画期的なブレークスルーになるように思う。