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5月8日 免疫抑制剤テリフルミドが難治性てんかんに効く可能性(6月5日発行予定Neuron掲載論文)

2019年5月8日
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てんかんは一過性の神経興奮なので、神経細胞へのイオンの流入を抑えるたとえばバルプロ酸、あるいは抑制性神経を高めて興奮を抑えるジアゼパム、さらにはシナプスでの伝達物質の分泌を抑制するレベチラセタムなどが用いられるが、それでも半分近くが難治性てんかんとして、これらの薬剤が効きにくい。

幸い最近になってカンナビノイド、電磁波、さらにはケトン食など、これまでとは違う作用機序の治療方法の開発が進んでいる。今日紹介するテルアビブ大学からの論文は、ミトコンドリアのカルシウムを調節することで神経の興奮閾値を下げるテリフルミドがてんかんにも使える可能性を示す論文で6月5日発行予定のNeuronに掲載された。タイトルは「Mitochondrial Regulation of the Hippocampal Firing Rate Set Point and Seizure Susceptibility (海馬の興奮頻度のセットポイントと発作の閾値をミトコンドリアを介して調節する)」だ。

この研究では、最初から神経の興奮が誘導される刺激のセットポイントを調節している一つの要因が神経の代謝にあると考え、この代謝を変化させこ神経興奮の閾値を高めて神経を興奮しにくくすることでてんかん発作を止めるという目標を立てて研究を行なっている。

まずてんかん患者さんの脳の遺伝子発現をデータベースから調べ、てんかんの人で発現が最も高まる代謝関連遺伝子の一つとして、ミトコンドリア膜に存在するDihydroorotate dehydrogenase(DHODH)を突き止める。さいわい、DHODHの機能阻害剤として、リュウマチや多発性硬化症にすでに用いられているテリフルミド(TERI )が存在しており、このTERIが神経の興奮頻度を強く抑えることを示している。また、shRNAでDHODHをノックダウンしても同じように興奮を抑制することを示し、この酵素を標的に神経興奮の閾値をあげられることを確認している。

次に、作用のメカニズムを解析し、

  • ミトコンドリアの機能の中心であるATP産生は変化させず、予備の呼吸機能のみ抑える。
  • DHOHはミトコンドリアのカルシウムを調節することで、刺激時のカルシウム濃度のバッファー機能を形成している。TERIによりこれが可逆的に抑えられることで興奮がおさえられる。
  • TERIは海馬の神経ネットワークを阻害することなく、神経自体の興奮性を下げる。
  • GABA刺激による抑制性ニューロンの作用は抑えない。

このように生理学的メカニズムを確認した後、最後に痙攣誘発剤による発作、および幼児期からはじまる難治性てんかんドラべ症候群モデルマウスのてんかんにTERIが効果があるかを調べている。痙攣誘発剤によるてんかんについては高い効果を示している。遺伝的なドラべてんかんモデルでは、発作の起こる回数を抑えることを確認している。

結果は以上で、すでに自己免疫病に使われている薬で難治性てんかんを抑える可能性があるという臨床応用可能性が高い結果だと思う。

しかしこの結果を見ると、神経のネットワークは抑えないと言っても、リュウマチや多発性硬化症でTERIを使うとき本当に神経症状はないのか気になる。

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