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5月20日:Try and Errorの脳科学(6月13日発行予定Cell掲載論文)

2019年5月20日
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脳科学は多くの細胞の活動を同時に、継時的に記録する技術と光遺伝学の技術開発により急速に進展した。とくに、判断や学習の過程を継時的に記録できるため、複雑な課題を処理するプロセスが研究できる。すなわち、脳内でより高度な統合を必要とする行動が研究できるようになる。ただ脳科学の素人にとっては、読むのがますます困難になる。今日明日と、内容は理解できても、詳細についてなかなか理解ができない論文をあえて紹介したい。

最初はカリフォルニア大学サンディエゴ校、小宮山研究室からの論文で、try-and-errorを繰り返すうちにルールを学習して熟練する過程で、この経験を蓄積・統合して決断するための主観的価値をきめている場所を特定した研究で6月13日発行予定のCellに掲載された。タイトルは「Area-Specificity and Plasticity of History-Dependent Value Coding During Learning (学習過程で経験の蓄積に依存するバリューコードに関わる領域特異性と可塑性)」だ。

右か左か2者選択の正解率が異なる課題で、どちらの可能性が高いかを経験により学習させると、マウスも十分賢くて、確率の高い方を常に選ぶようになる。そこで確立が急に変わると、また学習を行ってその確率に合わせる。この過程では、try-and-errorを繰り返した歴史的経験が脳のどこかにコードされ、それを参照して褒美をもらうための決断が必要になる。

このような過程をどう研究するのか、勉強にはなるのだが、データの見方などはかなり高度になり、この分野がますます素人には理解しづらい分野になっていく印象を持つ。と断った上で、論文を読み進めると、この経験は全て外部から支持されるのではなく、主観的に形成されることから、まず数理モデリングを用いてこのような経験の積み重ねで判断の基準が形成される過程に必要な要素をパラメーターとして特定する。

この結果をもとに、脳の各領域の神経活動をカルシウムを用いた発光で記録し、学習過程で様々な反応を示す各ニューロンの中から、それぞれの素過程に最も関わる脳内領域を特定し、経験の積み重ねに基づく判断に最も相関する領域として脳梁膨大後部皮質(RSC)を特定する。

さらに、RSC内の各神経の活動は同じパターンを長く維持しており、蓄積した価値がしっかりとレファレンスとして維持されていることを示している。とはいえ、RSC神経は新しい経験に対して最もよく反応して、新しい経験をアップデートしている。

以上に基づいて、光遺伝学的にRSC神経活動を抑えると、それまでの蓄積に基づく判断ができなくなることから、RSCが経験の積み重ねという歴史を表彰しているという結果だ。

あまり間違ってはいないと思うが、しかし行動に関わる要素が複雑化し、さらに多くの細胞の反応を同時に記録し、そのなかから各要素に対応する神経細胞を特定していく、まさにビッグデータサイエンスが深まれば深まるほど、内容は面白いのだが、データの理解がわかりにくくなってくる。ゲノム研究も同じだが、素人向だがデータもある程度理解できるうまいデータ提示の方法が必要な気がする。

明日は課題がもっと複雑な論文を扱う。

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