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5月15日 PD-1とCTLA-4がつながった(5月10日号Science掲載論文)

2019年5月15日
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昨年のノーベル賞の受賞理由にも書かれていたが、PD-1とCTLA-4はそれぞれ全く独立したシグナルで、PD-1はPD-L1と、CTLA-4はCD80/86と反応することで、T細胞の免疫反応を抑制する。PD-L1は腫瘍細胞だけでなく樹状細胞にも発現しているが、この場合もCD80/86とは独立していると考えられてきた。

ところが今日紹介する徳島大学疾患ゲノム研究センターの岡崎さんたちの論文は、同じ樹状細胞内でPD-L1とCD80が結合してPD-1を効かなくすることを示す予想外の相互作用を示した研究で、この分野で最近我が国から発表された中では出色の研究だとおもう。タイトルは「Restriction of PD-1 function by cis-PD-L1/CD80 interactions is required for optimal T cell responses(PD-L1/CD80結合分子がPD-1の機能を抑制して至適なT細胞反応を誘導する)」だ。

イントロダクションからだけでは、なぜこのような着想に至ったのかは理解できなかったが、長年のPD-1に関する研究から生まれたのだろう。この研究では、同じ細胞でPD-1とCD80が相互作用をすることで、PD-L1のPD-1への刺激が減弱するのではという可能性を、まずPD-1の細胞外ドメインを多量化した可溶性タンパク質を用いてPD-L1やCD80を同じ程度発現している細胞を染色するエレガントな方法で調べている。

もちろんPD-L1を発現している腹腔マクロファージはPD-1で染色できるが、同じようにPD-L1を発現していても、同時にCD80を発現している樹状細胞では染色が低下することを発見する。そして、CD80ノックアウトマウス由来の樹状細胞を用いると、染色が正常化する。また、両方の分子を発現している細胞では、分子複合物が形成されていることも証明している。

以上の結果は、CD80がCTLA-4を刺激してチェックポイントを動かすと同時に、PD-L1と結合してPD-1チェックポイントが働かなくしているという複雑な反応が同じ樹状細胞で起こっていることを示している。とすると、最終的な免疫反応に対するPD-L1/CD80相互作用のネットの影響はどうなのか調べる必要がある。ただ、CD80をノックアウトしてしまうと、CTLA4への効果もなくなり、ネットの効果を見ることができない。

そこでこのグループは、それぞれPD-1やCTLA-4への刺激作用は正常だが、互いに結合できないPD-L1とCD80の突然変異を分離し、最終的にCTLA4と正常に反応できるが、PD-L1と同じ細胞状で反応できないマウスを作成している。こうして用意したマウスの卵白アルブミンに対する反応を調べると、変異を持つマウス、すなわちCTLA4は刺激できるが、PD-1は刺激できないマウスでは反応が強く抑制されることを示している。また同じ系で癌に対するT細胞の反応も低下することをしめしている。同じように、自己免疫性の脳炎も、PD-1がチェックポイントに関わっており、CD80/PD-L1の相互作用がおこると、このブレーキが聞かないことも明らかにしている。

以上の結果から、PD-L1/CD80相互作用が生理学的機能として免疫の調節に関わることが示されたと思う。全く予想外の新しい発想の研究で、創意と知識の感じられる丁寧な実験に裏付けられている。例えばこれまでよく理解できなかったPD-L1抗体とPD-1抗体の作用の違いをはじめ、この分野に新しい可能性を開いた重要な貢献だとおもう。

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