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5月11日 バソプレシン系を標的にしたASD治療治験(5月8日号Science Translational Medicine 掲載論文)

2019年5月11日
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自閉症スペクトラムの薬剤としてオキシトシンとともに期待されているのがバソプレシンだ。両者はともに9つのアミノ酸からできており、途中のシステインで同じような立体構造を取っている。またこれらが結合する受容体は複雑で、完全に特異性があるわけではない。

これまでの研究でオキシトシンと同じようにバソプレシンを鼻から投与する方法でASDの症状が一過性に改善すること、またASDの脳ではバソプレシンが低下しているという研究があったため、バソプレシンでASDを治療する治験が進んでいた。

今日紹介したい2編の論文は、一つはバソプレシンを経鼻的に投与する従来の方法についての治験、もう一編はなんとバソプレシンの受容体のうちのV1AR特異的な阻害剤を用いた治験で、ともに5月8日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは最初が「A randomized placebo-controlled pilot trial shows that intranasal vasopressin improves social deficits in children with autism(バソプレシンの無作為化盲検法による小規模治験は自閉症の児童に対して効果を示した)」で、もう一編は「A phase 2 clinical trial of a vasopressin V1a receptor antagonist shows improved adaptive behaviors in men with autism spectrum disorder(バソプレシン受容体V1aの阻害剤はASDの大人の適応行動を改善した)」だ。

詳細は省いて治験の概要と結果だけを紹介する。

最初の論文は最終的に条件を満たした30人の6−12歳の児童を無作為化し、両親にも気づかれない形で盲検化したバソプレシン経鼻薬を4週間投与、様々な指標での症状改善を調べている。詳細は全て省くが、社会性、反復行動、過度の不安など全てではっきりとした改善が認められ、また心配される血管や腎臓の副作用もないという素晴らしい結果だ。示されたデータを見ると、素人の私でも改善がはっきりしているのがわかる。また一つ重要な発見として、治療前のバソプレシン血中濃度が高い子供ほど効果がある。この理由は特定されていないが、今後の症例選択に役立つ可能性がある。

もう一編の論文は、アゴニストではなくVA1R 受容体の特異的阻害剤を用いている。なぜ阻害剤が効くのかについてはおそらく受容体が何種類もあり、それぞれの受容体の効果が異なるため、特定の一つを抑えることが、全体のバランスを変えることで効果が見られることがあるのだろう。

この治験では12週間阻害剤を内服させている。AVR1は当然抗利尿作用などもあるので、すぐに児童での治験は難しく、知能は正常でASD症状をもつ大人について、用量を変えて効果を確かめている。

付き添いの人の印象での改善度で見ると4mgまで全く効果がないが10mgでは効果が少しみられている。一方他の客観指標では、用量を増加させるとともに改善が見られ、全体としてはまだ有望だと結論している。副作用では不思議なことに、プラセボ群と比べても最も多い10mgを投与した群が少ないため、おそらく長期の使用にも耐えるだろうと結論している。

片方は刺激剤、もう片方は阻害剤が共に効果を示すという一見理解しにくい結果だが、これが正しいとするとVAIRは逆に自閉症症状を高める働きをしていることになり、オキシトシンを含め今後の治療法開発に大きなブレークスルーになるように思う。何れにせよVA1Rの阻害剤も児童での効果を慎重に調べるところから進めてほしいと思う。いずれにせよ、ASDの薬剤による治療も一歩一歩進んでいる。

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