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5月2日 血液中に漏れ出たガンDNAを使う診断法が実用に近づいてきた(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2019年5月2日
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ダウン症候群の子供を、母親の血液に漏れ出てきたDNAで出生前診断することは、すでに信頼の置ける検査として定着している。このように、増殖と細胞の破壊が並行して起こる場合は、その細胞由来のDNAが血中で検出できる。当然、同じことはガンでも起こり、バイオプシーの代わりに血液中のDNAでガンを診断する方法の開発が進んでいる。

ダウン症のように、ガンで特異的に見られる突然変異をマーカーとして使える場合は、治療効果や、再発、転移を診断するために利用できることも確認されている。しかし、存在するかもしれないガン細胞がどの遺伝子を発現しているのか全くわからない場合は、血中のDNAを網羅的に調べて、突然変異の同定から始める必要があり、簡単ではない。

今日紹介するマンチェスター大学を中心とする研究グループからの論文は、全遺伝子ではないが、ガンで変異で起こりやすい641種類の変異に焦点を絞って、血中のDNAにリストした遺伝子の変異があるか調べる簡易型の方法を用いれば、かなりの確率で新しいガンの遺伝子診断が可能であることを示した論文でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「Utility of ctDNA to support patient selection for early phase clinical trials: the TARGET study (血中DNAを初期段階の臨床試験の患者さん選びに用いる可能性:TARGET研究)」だ。

この研究では、バイオプシーしたサンプルと、血中DNAに存在するガン特異的変異の存在を比べることで、ガンの診断を行うだけでなく、分子標的薬の治験の対象者を選ぶときに使えるか調べている。

まず決まった641種類の遺伝子に焦点を絞って純化した後増幅することで、ガン特異的変異についての信頼できるデータが得られられるようになっている。テクノロジーを見ていると、古代人の骨から採取したほんの少量のDNAの配列を調べる方法とほとんど同じで、一般に販売されているキットを組み合わせてデータが得られるように計画されている。

最初様々な条件を20人のサンプルで検討した後、22種類のガンと診断された100人の患者さんで、実際の臨床で治療のための最適な分子標的薬を選択できるかについて調べている。検査にかかる日数は、20−80日とばらつくが、平均33日で、現在イギリスでのゲノム診断が30日なので、実用的レベルに達している。

結果だが、バイオプシーによる遺伝子検査との一致率は79%で、十分実用的になってきたと言える。さらに、この方法では遺伝子コピー数の変異も調べられる点で、現時点でもバイオプシーを補完するところまでは間違いなくきている。

個々のガンで見ると、メラノーマ、小細胞性未分化ガン、乳ガン、大腸ガンなどで変異の発見率が高く、非小細胞性肺ガンや前立腺ガンが続く。特殊なガンを除くと、半分以上は遺伝子変異を見つけることができる。

ただ遺伝子変異があるからといって、ガンと診断できるわけではない。実際、前ガン状態でほとんど重要な変異が見つかる場合も多く、さらに同じ細胞がすべての変異を持つということをこの方法では決められない。

そこで、この研究では発見した遺伝子変異をもとに治療薬を決め治療するということに絞って検討している。すると、100人中41人で治療可能な変異が見つかっている。そのうち、17人は分子標的薬を使わず、通常の治療法を行なっている。13人は治験参加を断られている。残る11人は発見された変異に基づく分子標的薬を用いた治療を行なっている。

結果は、遺伝子変異を元に治療した場合のみ、腫瘍の縮小が見られている。残りの症例も、病状は安定して進行は抑えられたという結果だ。

以上をまとめると、末梢血10mlで、ガンの確定診断はできないが、ガンの遺伝子変異についてはかなりの確度で診断でき、ガンに合わせて治療選択するプレシジョンメディシンのためのとしてはかなり有望な検査に仕上がっていると思う。今後、500人規模の治験が予定されているので、期待したい。

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